こんにちは。ママライターのKOUです。
私たち大人でも、「うっかり忘れた」ということは多々ありますが、意外にも子どもの“物忘れ”で悩むママさんたちを耳にします。
知人のママさんから、当時小学1年生だったお子さんについて、「うちの子は、返事だけはいいのに次の瞬間忘れているようなんです」と、相談を受けたことがあります。
お子さんの物忘れの程度がひどかった印象があったので、小児神経科などの専門医に診てもらうことをすすめました。
その結果、ADHD(注意欠陥・多動性障害)が疑われましたが、お子さんは年齢が上がるにつれて落ち着いてきて忘れることも少なくなったそうです。
> ADHDの主な症状3つ(P1)
> 記憶に関する短期記憶とは(P2)
> ADHDの人が物忘れをしてしまう理由(P2)
> ADHDの人が集中力を失う原因(P3)
> ADHDの人が物忘れを防止する方法(P3)
> 物忘れのひどい子どもに接するときの3つのコツ(P4)
> 物忘れとアルツハイマーとの関係(P4)
> ADHDの人に見られる物忘れ以外のあまり知られていない特徴10選(P5)
> まとめ(P5)
ADHDとは

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは、「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」の頭文字をとった略語です。
「不注意」「多動性」「衝動性」といった3つの症状が特徴的な発達障害のことを言います。
年齢や発達に応じた行動ができず、学校や社会などにおける活動・生活に支障をきたすことがあります。
ADHDは脳の前頭葉における神経伝達系の機能が弱いことで起こるとされており、子どものうちだけでなく大人になってからも症状が継続的にあると言われています。
ADHDの主な症状3つ

(1)不注意
・集中力がなく、一つのことを継続して行うことができない
・自分の興味のあることに対しては没頭しすぎる
・忘れ物が多い
・片付けが苦手
・人の話を聞いていない(ボーッとしている)ように見える
・注意力が散漫で気が散りやすい
・物を失くしやすい
・忘れっぽい(自分が言ったことや言われたことをすぐ忘れる)
(2)多動性
・じっとしていられずそわそわ体が動く
・静かに座っていられない
・すぐおしゃべりしてしまう
・静かにしなくてはいけないところで静かにできない
(3)衝動性
・気に入らないことがあると乱暴になる
・人の話をさえぎって自分の話をし出す
・会話のキャッチボールができない
・順番を待てない
→次ページでは、記憶に関する短期記憶について見ていきましょう。
記憶に関する短期記憶とは

人間の脳には、情報を秒単位の短時間だけ記憶しておくシステムがあり、それを短期記憶と言います。
一時的に記憶した情報を何度も復唱したり書いたりして覚えない限りは、その情報は短時間で消えて行ってしまいます。
短期記憶は日常生活の中でも、さまざまな判断や他人との会話、文章の理解、計算などの認知行動に関わっている大切な機能です。
ADHDの人の場合は、この短期記憶の仕組みに何かしらの問題があると言われており、一時的に記憶しておいた情報を引き出す、操作するといったことが困難だと言います。
ADHDの人が物忘れをしてしまう理由

ADHDの人は、健常者に比べて一時的に記憶しておける情報量が少ないため、忘れっぽい、うっかりしているといったことが起きてしまうのです。
そのため、「怠けている」「わざとやっている」と見られてしまいがちですが、脳の神経機能の問題なので、本人はけして怠けているわけでもわざとやっているわけでもありません。
たとえば、健常者であれば、無意識でも財布を置いた場所をなんとなく覚えておくことが可能です。
「あれ? 財布をどこに置いたっけ?」となったときにも、「そういえばあそこに置いた気がする……」となり、比較的簡単に見つけることができます。
一方、ADHDの人の場合、財布をどこに置いたか一時的にでも記憶しておくことができないため、全く置いた場所の見当がつきません。置いたことすら忘れています。
短期記憶が苦手なために、物忘れや忘れ物、失くしものが多いというわけです。
ADHDの「不注意」の症状が強く出ている人だと特に物忘れがひどくなってしまいます。
子どもの物忘れの原因
専門医などによると、子どもの物忘れの主な原因は、“集中力の欠如”が挙げられると言います。集中力が足りない子は、落ち着きがなく、人の話を聞いていないという特徴があります。
これらの特徴を持つ子は、小学校に入るくらいの年齢の子どもであれば、少なくとも3%ぐらいはいるといわれ、“個性”と考えてもいい範囲のものです。
ただ、症状が強く出て日常生活に大きく支障をきたしたり、周囲の大人や子どもを困惑させたりするような場合には、ADHDなどの発達障害を疑われるケースもあるようです。
とはいっても、未就学児の場合、大人の言うことを全て理解できなかったり、他に気持ちがいってしまったりすることは多いものです。
→次ページでは、ADHDの人が集中力を失う原因を見ていきましょう。
ADHDの人が集中力を失う原因

ADHDの人は、今やっていることがあっても、新しい刺激によって集中力を失い作業を中断してしまいます。
たとえば、勉強中にうっかり漫画が目に入ってしまったとします。すると、関心は漫画に移り、勉強を中断して漫画を読みふけってしまうのです。
そして、一度勉強から心がそれてしまうと、簡単には元に戻れません。
このように、一つの作業をしていても次から次へと訪れる新しい刺激によって関心の対象が変わってしまい、元の作業のことを忘れてしまうという仕組みがあるため、ADHDの人は集中力が続かないのです。
なお、一つのことに集中できない原因は、脳の中にあると言われています。
脳のワーキングメモリー(作業記憶)に何らかの不調があるため、ADHDの人はするべきことを忘れる、物事が覚えられないのです。
ADHDの人が物忘れを防止する方法

予定・用事の物忘れ防止策
【手帳に書く】
1日ごとに1日分の用事が書き込めるスペースのある手帳でスケジュール管理を徹底。「○○を買う」といった小さな用事から、「△△の締め切り」など仕事の予定まで、その日にやるべきことをすべて書いておきます。
【カード立てにメモを立てておく】
忘れてはいけない用事・予定をメモに書いたら、カード立てに立てて目立つ場所へ置いておきましょう。
【アプリで管理】
スマホのアプリには、その日にやることリストを表示してくれるもの、タイマー機能でお知らせしてくれるものなど、便利なスケジュール管理アプリがありますので、それらを利用してもいいでしょう。
【忘れそうなことはすぐにメモ】
メモとペンを常に身に付けておき、忘れてはいけないこと、忘れそうなことは言われてすぐにメモを取る癖をつけましょう。
【終わった用事・予定には線を引いて消す】
メモに書いておいた用事や予定が終わったらすぐに線を引いて消しておきます。そうすると、やらなければならないことだけが残り、予定を整理しやすくなります。
【タイマーをセットしておく】
自分が今何をしているかということ自体を忘れる場合は、「子ども部屋の片付け」「煮物」「お風呂のお湯はり」「リビングの掃除」など、今やっていることを付箋に書いて見える位置に張り付け、タイマーをセットしてスタートします。
物の紛失防止策
【置く場所を決めておく】
大事なものやよく使う物はどこに置いたか忘れないよう、毎回必ずココへ置くという場所を決めておきましょう。目につく場所に「重要な物BOX」というメモを貼った入れ物を置いておき、そこへ入れるようにすると忘れません。
【よく使う物や探す物は目立つ色にする】
財布や定期入れ、スマホなど、よく使う物やよく探す物は見つけやすいように目立つ色にするというのも手です。
買ったものを忘れない工夫
【冷蔵庫の中のものをメモしておく】
冷蔵庫の中に何が入っているのかをメモした紙を冷蔵庫に貼っておくと、同じものを買ってきてしまうというミスが防げます。
忘れ物の防止策
【持ち物は前日にリストを見ながら用意する】
学校や会社に持って行くものは、前日の夜に持ち物リストを作り、それを見ながら揃えてバッグに入れておきましょう。
【特定の持ち物は扉の前や靴の上などあえて邪魔になる場所に置いておく】
傘や帽子、ゴミ出し用のゴミなどは、当日に持って行くことを忘れないよう、玄関のドアノブにかける、靴の上に置く、扉の前に置くなど、あえて自分の行動の邪魔になる場所へ置いておくと忘れにくくなります。
→次ページでは、物忘れのひどい子どもに接するときの3つのコツを見ていきましょう。
物忘れのひどい子どもに接するときの3つのコツ

物忘れのひどいお子さんに対する接し方について、現役ママさんや専門医などの意見を伺いながら、3つのコツをまとめました。
(1)叱らない
『幼稚園のころから忘れ物が続いていて、そのたびに叱っていました。小学校に入っても、忘れ物は続いていましたが、新しい環境に戸惑う娘を見て、怒ってばかりもいけないと考え直しました。そこで、私が“忘れ物チェックリスト”を作って、娘と一緒に毎朝持っていくものをチェックすることで、少しずつ減らしていくことに努めています』(小学1年生女の子ママ)
物忘れ自体を叱ってばかりいることで、子どもは自信をなくしたり、家族への安心感をなくしたりして、さらに不安定な状態が続くおそれがあります。
“忘れ物チェックリスト”などを作って、目標を絞り、辛抱強く教えるとともに、忘れなかったときには子ども自身の努力や成長を褒め、自信や安心感を持たせることが大切だと言います。
(2)興味のある話に持っていく
『うちの子はあれこれ気が散るようで、さっき言い聞かせたこともすぐに忘れやすいです。人の話を聞いていないようで、言い聞かせることに苦労しています。大事なことを伝えるときは、話の中に子どもの好きなキャラクターを登場させて、「○○が、(着替え用の)パンツを保育園に忘れないようにって言っていたよ」などと興味のある話に持っていきます。多少の効果はあるみたいで、保育園での忘れ物は少なくなりました』(保育園年中男の子ママ)
気が散りやすい子の場合、忘れたというよりも人の話を聞いていない可能性が高いです。
言い聞かせる際には、話に注意を引くような工夫が必要です。
好きなアニメなど興味のある事柄を織り交ぜながら、目を合わせてゆっくりと話し掛けることをおすすめします。
(3)学校や保育園(幼稚園)の先生に協力を求める
『忘れ物の多さは、常に保育園の先生から指摘されています。息子が忘れやすいことを、メモにして渡して、先生にも注意を払ってもらえるようにお願いしています』(保育園年長男の子ママ)
学校や保育園(幼稚園)の先生と、子どもの様子について話し合い協力を求めることで、子どもへの理解が深まり、共通の目標を持って子どもにかかわることができます。
子どもの心に、忘れることから生まれる罪悪感ではなく、家族や先生が自分を守ってくれる存在だという安心感を与えることが重要なようです。
物忘れとアルツハイマーとの関係

物忘れが多いという症状は、ADHDだけでなくアルツハイマーにも起こるものです。しかし、両者は原因も症状も異なる別のもの。
ADHDの場合、物忘れをしてもきっかけやヒントがあれば思い出せますが、アルツハイマーの場合はきっかけやヒントがあっても思い出せません。
また、ADHD特有の「不注意」による物忘れは、工夫や治療によって改善することもできます。
ただ、ADHDの人でもアルツハイマーになることはあります。
その場合、物忘れの症状が元からのADHDによるものなのか、アルツハイマーによるものなのか見分けることが困難になると言います。
アルツハイマーだと判断されることにも時間がかかってしまうことが多いようです。
→次ページでは、ADHDの人に見られる物忘れ以外のあまり知られていない特徴を見ていきましょう。
ADHDの人に見られる物忘れ以外のあまり知られていない特徴10選

ADHDの人にみられる特徴としてよく言われていることの他にも、あまり知られていない特徴もありますので、いくつか紹介しましょう。
(1)対人スキルが未熟
自己中心的で協調性に欠ける、ルールや人との約束が守れないなど、人の気持ちを考える余裕がないことからくる対人スキルの未熟さがあるようです。
(2)発達性協調運動障害(DCD)
球技や縄跳びなど、全身を使うスポーツが苦手である『発達性協調運動障害(DCD)』の特徴が見られることもあります。
(3)発達アンバランス症候群
脳の発達が未熟だったりアンバランスだったりすることにより、年相応の行動ができない場合もあります。
(4)ボーっとしている
特に女児に多い不注意優勢型のADHDの場合、人の話を聞かずにボーっとしているという特徴もあります。
アメリカではこれを『デイ・ドリーマー』と呼ぶそうです。
(5)成績がトップクラス
学校の勉強についていけない子もいますが、ADHDの「自分の興味のあることには周りが見えないくらい没頭してしまう」という特徴から、勉強に興味を持つと過集中によって成績がトップクラスになる子どももいます。
(6)習癖異常
鼻をほじる、抜毛癖、貧乏ゆすりをする、爪を噛むなどの習癖異常が見られることも多いです。
(7)不随意運動が起こりやすい
激しいまばたきや手足をピクピク動かす、鼻を鳴らすなどの症状がみられる『チック症』や『トゥレット症候群』といった不随意運動が起こりやすいのも特徴と言えます。
(8)方向音痴
左右の感覚がわからないなど、方向音痴であるという特徴もみられるそうです。
(9)ストレスへの耐性が弱い
ADHDの人は多動性や衝動性から危険な目に遭うことも多く、その恐怖が脳に刻まれやすいため、PTSDも生じやすいと言われています。
ストレス耐性が弱いため、過去のトラウマなどによってフラッシュバックが生じやすいそうです。
(10)ニコチンやアルコール依存症になりやすい
脳を覚醒させて集中力を高めようとして、ニコチンやアルコール、カフェインなどの依存症になりやすいと言います。
まとめ
「ADHDの主な症状」や「ADHDの人が物忘れをしてしまう理由」「ADHDの人が集中力を失う原因」などについてご紹介してきましたが、いかがでしたか?
小さいころの物忘れは、その子の「個性」として捉えようとしても、そばで見ているママからしたらイライラしてしまいますよね。しかし、大人が根気強く接していくことが大事なようです。
こちらで紹介した方法を試しても物忘れが激しく続く場合は、一度専門医のところに足を運んでみてください。
【参考文献】
・『子どものこころ百科』東山紘久・著
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●追記/パピマミ編集部