被害も加害も防ぐ! 高齢ドライバー特有の事故と家族がすべき対策6つ
2017年3月24日 | よみもの被害も加害も防ぐ! 高齢ドライバー特有の事故と家族がすべき対策6つ

こんにちは。元教習指導員の奈都木あやです。
近年、高齢運転者(65歳以上)による交通事故が頻繁に取り沙汰されるようになりました。
平成28年10月には横浜市で、87歳の男性が運転する軽トラックが集団登校中の小学生の列に突っ込みました。この事故で、小学1年生の男児が亡くなりました。この報道に胸を痛められた方は多いはずです。
子育て中の方は、わが子の身の危険をひしひしと感じられたのではないでしょうか。
また、自分の親がそろそろ高齢ドライバーの域に入り、不安を抱えているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
子育て世代は、被害者側の家族にも加害者側の家族にもなり得る世代ということになります。
そこで、わが子が被害者となるリスクを減らす心がけと、高齢ドライバーの家族が加害者とならないための対応をご紹介します。

高齢ドライバーの事故発生状況
悲惨な事故が報道されるたびに、最近はずいぶん事故が増えたな……と感じてしまいますが、実際のところはその逆です。
警視庁によると、都内の交通事故件数は年々、減っています。平成27年には、10年前の半数以下となりました。
しかし、それに反して高齢ドライバーが関与した交通事故の割合は、年々高くなっています。平成27年には、10年前の約1.9倍にまで増えました。
また、自動車乗車中と歩行中の事故が特に多く、7年ぶりに自動車乗車中の死者数が歩行中を上回りました(平成28年上半期)。
高齢化はこれからも進む一方。平成27年のデータでは、免許保有者全体の5人に1人程度が高齢者という状態です。
今後も高齢者が関与する交通事故は増えると考えられ、もはや他人事ではない状況です。
高齢ドライバーの特性と特徴的な事故
高齢ドライバーに多い運転特性
・「相手が止まってくれるだろう」という判断の甘さがある
・相手を発見していても、判断ミスで対応が遅れたり、ブレーキを踏まない
・アクセルやブレーキの操作が遅れる
・右左折時に視線を切り替える回数が少ない。そのため、進行方向を見る時間が長くなる傾向がある
高齢ドライバーに多い事故(1)バック
アクセルとブレーキの踏み間違い事故はしばしば報道されています。踏み間違いは前進でもバックでも起こり得ます。
しかし、前進に比べ、バックは運転が複雑になることから特に注意が必要です。
ところが、子どもはバックしてくる車の後ろを平気で横切ってしまうことがあります。
ブレーキの踏み間違いで店に車ごと突っ込んでいる事故の様子が報道されていたら、お子さんに見せてあげてください(強いショックを受けてしまいそうなお子さんには、簡単な図を描いて説明してあげましょう)。
「もし、この車の間に挟まれたらどうかな?」と問いかけ、考えさせましょう。バックしている自動車の後ろを平気で横切ることはできなくなるはずです。
高齢ドライバーに多い事故(2)出合い頭事故
高齢ドライバーの特徴的な事故の代表ともいえるのが、“出合い頭事故”です。警察庁交通局のデータによると、85歳以上のドライバーが最も多く出合い頭事故を起こしています(平成28年中)。
出合い頭事故を起こしやすい高齢ドライバーと、飛び出し事故の多い子ども。両者が見通しの悪い交差点で出あえば最悪の事態が想像できます。
親子でお出かけの際は、道路と道路が交わる場所では立ち止まり、左右を確認する訓練をしておきましょう。
高齢ドライバーに多い事故(3)右折事故
「右折ってなんだかドキドキする。右折のタイミングを逃すと、後ろの車からクラクションを鳴らされたり……。ようやく右折したと思ったら、横断歩道を人が歩いていてヒヤッとした」なんて経験のある方も多いのではないでしょうか。
右折は対向車線を横切るため、左折以上に判断や安全確認が複雑になります。加齢の影響が出てくるとなおさら危険は増します。
交差点で横断する際は、高齢ドライバーが右折してきたら、信号が青でも止まる心の準備をしながら渡らせましょう。
危険度の高い高齢ドライバーに気づく力

『運転時認知障害早期発見チェックリスト30』をご存じですか?
軽度認知障害の人が運転時に表れやすい事象がまとめられています。鳥取大学医学部教授の浦上克哉さんが監修・作成されたものです。
このチェックリスト項目に5つ以上該当すれば要注意とされ、専門機関の受診をすすめています。
運転者向けに作られたものですが、この項目に当てはまるドライバーを見かけたら注意した方が良さそうです。
客観的にわかる項目だけをご紹介します。
・曲がる際にウィンカーを出し忘れている
・反対車線を走っている
・車体に目立つ傷がある
・駐車場のラインや、枠内に合わない停め方をしている車
・急発進、急ブレーキ、急ハンドルなど、運転が荒い車
・汚れがひどい車
誰しも、忙しくて洗車できないときぐらいあります。また、当て逃げされて車体に傷がある、という不運なこともあるかもしれません。
上記の項目に1つでも該当したからといって危険ドライバーだと判定するのは早計かもしれません。しかし、こういった傾向のドライバーを警戒する危険予測の力は必要です。
日頃から、「あれは、もしかしたら危ない車かもしれないね」と親子で危険予測の訓練をしておきましょう。
家族の対応6つ
次は、家族に高齢ドライバーがいる場合、加害者とならないための対応をご紹介します。
(1)高齢者マーク(高齢運転者標識)をつける
高齢者マークは、70歳以上の高齢運転者が車の前後の定められた位置につけることができます。
努力義務ではありますが、つけることにより周りの車や人が配慮しやすくなります。
また、お子さんにはこのマークの存在と意味を教えておきましょう。
(2)複雑な交差点を避ける
高齢ドライバーは、買い物や通院など近距離での運転が多いことがわかっています。
まずは、家族で危険箇所を話し合いましょう。
そして、複雑な交差点を避け、見通しの良い道路を選び、安全なルートを通行するように決めておきましょう。
(3)運転前には体調を確認し、持病や服薬の状況によっては運転を控えるように促す
家族の声かけが事故を未然に防ぎます。運転をするかしないかの判断を本人任せでは危険です。
(4)運転時認知障害早期発見チェックリスト30の活用
警察のホームページやインターネットの検索ですぐに出てきます。高齢者の方のプライドを傷つけないように配慮しつつ、1年に1度はチェックを行いましょう。
(5)自主返納
チェックリストの結果や運転に不安が出てきたら、自主返納することが何よりの安全対策です。
自主返納とは、運転免許の申請による取消しのことです。自主返納をすると、希望により『運転経歴証明書』を交付されます。
運転経歴証明書は、返納前の5年間についての運転経歴を証明するものですが、金融機関での本人確認書類としても使用することができます。
また、各自治体によって対応は異なりますが、いろいろな優遇が受けられるところが多いようです。
例えば、交通機関の運賃の割引、美術館や加盟店での優遇など。お住まいの自治体の状況を調べてみれば、自主返納を促しやすくなるかもしれません。
(6)高齢者の家族に助言や指導をする相談窓口の活用
「自分はまだ大丈夫だ!」これが高齢ドライバーを家族に持つ方が、最も困る言葉かもしれません。かつて私が教習をしていたころも、何度か聞かされました。そのほとんどは、高齢者の方でした。
運転に危うさが出てくれば、家族としては何としても自主返納をさせたいものです。
「家族はあなたのことを本当に心配している」という気持ちを伝えてもダメなときは、専門機関に頼りましょう。
多くの警察では、高齢者の家族からの相談を受ける窓口を設けています。後悔する前に、まず行動です。
高齢ドライバーによる交通事故は、完璧な自動運転システムが開発されるまでは深刻な問題です。
ご家庭で、3世代にわたって真剣に話し合ってみてください。
【参考文献】
・『高齢者の交通事故と補償問題』堀田一吉・山野嘉朗(編著)
・『わかる 身につく 交通教本』一般財団法人 全日本交通安全協会(編集・発行)
【参考リンク】
・防ごう!高齢者の交通事故! | 警視庁
・警察白書『第3節 超高齢化社会』 | 警察庁
・やってみよう!「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」 | 警視庁
・自動車安全運転センター 交通安全等に関する調査研究/特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会(PDF)
・平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締状況等について | 警察庁交通局(PDF)