不自然じゃない! バイリンガル教育への偏見とメリット&デメリット
2017年2月16日 | よみもの不自然じゃない! バイリンガル教育への偏見とメリット&デメリット

みなさま、こんにちは! 海外生活25年続行中、国際結婚、国際子育て真っ只中のバイリンガル教育パパ、Golden Beanです。
月刊誌『ケイコとマナブ』が2015年に実施したアンケートでは、「子どもに習わせたい習い事」第1位は「英語、英会話」であったそうです。
たくさんのパパ、ママが子どもに英語を学んでほしいと考えている一方で、早期英語教育に批判的な意見もありますよね。
本当のところはどうなのでしょうか? バイリンガル教育のメリットとデメリットを、事実に基づいて冷静に検証する必要があると思います。
娘を、英語、日本語、中国語のトリリンガルに育てた私が、自身の経験を交えつつお話しさせていただきます。

バイリンガル教育の歴史
私たち日本人から見ると、バイリンガル教育が始まったのはつい最近のことのように思えますよね。
しかし、実はバイリンガル教育は世界中で5千年以上にわたって行われてきたのです。
『二言語使用や多言語使用は人間社会の初期段階に見られる特徴であって、一言語使用というのは社会的変化や、文化の発達、民族主義の高まりなど、何らかの原因で制限が加わった状態である』と、E.G.Lewisは述べています。
つまり、人は多言語を使用する能力を基本的に有しており、むしろその状態の方が自然だと言えるのです。
以前勤務していたシンガポールでは、基本的に全員が中国語と英語のバイリンガルでした。
中にはマレー語まで話せる人もおり驚いた記憶があります。ヨーロッパでも、3か国語、4か国語を話す人がたくさんいらっしゃるそうです。
バイリンガル教育への偏見
19世紀初めから1960年代までの時代、バイリンガリズムが思考に有害であるという考え方が研究者たちのあいだにありました。
バイリンガル教育が5千年以上にわたってさまざまな形で行われてきたことを見逃してしまっていたのですね。
たとえば、Laurie(1890)はバイリンガルの知的成長はバイリンガルになることによって倍になるのではなく、むしろ半減すると論じています。
このLaurieの考え方は、20世紀に入ってもイギリスやアメリカで一般的なものであったそうです。
この時代は、バイリンガリズムを「2つの言語がはかりの上で共存している状態」とする考え方があったのです。
つまり、はかりの上で、第二言語が増えると第一言語が犠牲になって減っていくとイメージされていたのです。
このはかりの考え方は実態に合っていないことがその後の研究で明らかにされていきました。
脳には2つの言語だけではなく、それ以上の言語にも十分に対応できる余裕があるということがわかったのです。
バイリンガル教育のメリット
2つ以上の言語を話せるようになることによって、どのようなメリットがあるのでしょうか?
異文化を理解でき、広い視野で物事を判断できる
バイリンガルになることやバイリンガルであることは、自尊心と自己に影響を与えるとLambert(1974)は述べています。
たとえば、英語を習った日本人が英語で外国人とコミュニケーションができるようになると、そのコミュニケーションにより新しい文化に触れることになり、その結果自己の文化が影響を受けることになります。
バイリンガリズムには異文化への接触、適応が含まれるのです。
その結果として、モノリンガルの人とは違った大きな夢、世界観、価値観を持つことができる可能性が高くなります。
学校や職業や住む場所の選択肢が広がる
英語ができることで受験することができる高校、大学の数も増えますし、留学することも可能になります。
海外勤務のチャンスも多くなりますし、海外への移住を選択することもできますよね。
収入が増える
『ダイジョブ・グローバルリクルーティング株式会社』が20〜50代の男女に対して実施した「語学力と年収に関する調査」(2014年版)によると、「日常会話レベル以下」と「ビジネスレベル以上」で比較した場合、年収の差は40代から顕著になり、50代の場合は、女性の「ビジネスレベル以上」の年収は「日常レベル以下」の約3倍、平均700万円台となることがわかったそうです。
バイリンガル教育のデメリット
良いことづくめのようなバイリンガルですが、バイリンガルになるための教育、学習の過程において、気をつけないといけないこととは何でしょうか?
外国語に対する不安とストレス
小さい子は英語をすぐに話せるようになる、外国生活にも適応できる、という話はよく耳にしますが、実際はかなり個人差があるようです。
子どもの場合、外国語学習に関する不安は少ないと思われがちですが、必ずしもそうではありません。
クロアチアで7〜10歳、11〜14歳、15〜18歳の児童を対象に、外国語学習での不安に関して行った調査では、どの年齢グループでもほぼ半分の児童が授業中に英語を話すことに不安を抱いていたそうです。
Skutnabb-Kangas(1981)は、十分発達していない言語で学ぶときに感じるストレスについて指摘しています。
よくわからない言語で授業を聞く場合には、高度の集中力が要求され、それは大変に疲れることなのです。
その上、常に言葉自体に注意を払っていなければならないので、授業の内容まで考える余裕がないということになってしまいます。
子どもは各教科の理解を深めると同時に、言語も学習しなければならないのです。
結果として、ストレスの高まり、自信喪失、そしてドロップアウトなどが起こる危険性があるのです。
小さい子どもの場合でも、この不安とストレスについて十分に注意を払わなければならないのは同じです。
2歳半のときに渡米。家ではとてもおしゃべりであるにも関わらず、通っている現地幼稚園ではいっさい声を発しない5歳の日本人少女の事例が『異文化に暮らす子どもたち―ことばと心をはぐくむ』という本の中で紹介されております。
『この少女は、プレッシャーと戦いながら、異文化に放り出された自分を失わないための自分なりの手段として、家庭と幼稚園での自分を使い分けていたのだろう』と著者である早津邑子さんは述べています。
残念なことに、この少女は専門医により重い心の病気であると診断され、治療のため日本に帰国することになってしまったそうです。
このような、つらく悲しい思いをかわいい子どもにはさせたくありませんよね。
私の娘の場合は、この事例の女の子とほぼ同じ年齢である2歳半でシンガポールに住み始め、英語の幼稚園に通い始めたわけですが、風邪を引いて熱があるにも関わらず幼稚園に行きたいと泣いたほど幼稚園が好きで、英語も短期間で驚くほど上手になりました。
良い先生に恵まれたのだと思います。子どもの性格が外向的であったことも幸いだったでしょう。
小さい子どもを外国語環境で学ばせる場合は、お子様の性格、学校環境、先生の質などに特に注意を払うことが必要ですね。
まとめ
(1)バイリンガル教育は5千年以上の歴史を持ち、多言語社会の方がむしろ自然である。
(2)研究の結果から、脳には言語能力用に限られたスペースしかないためモノリンガルの方が望ましい、と考えるのは間違っていることが示されている。
(3)バイリンガル教育の結果、(a)異文化を理解でき広い視野で物事を判断できる、(b)学校や職業や住む場所の選択肢が広がる、(c)収入が増える、などのメリットがある
(4)子どもにも外国語学習や外国語環境に対する不安やストレスはある。子どもの性格を見極め、それにあったバイリンガル教育方法を選ぶ必要がある。
いかがでしたでしょうか?
バイリンガルになることは決して不自然なことではないこと、バイリンガルになると良いことがたくさんあること、しかし、外国語の学習や環境は時として人に不安やストレスを与えるため、その人に合った方法を選ぶ必要があることなどがご理解いただけたでしょうか?
一人でも多くのお子様が英語を楽しく学び、バイリンガルになれますように!
【参考文献】
・『バイリンガル教育と第二言語習得』コリン・ベーカー(著)
・『バイリンガルは5歳までにつくられる』三幣真理(著)
・『5歳からでも間に合う お金をかけずにわが子をバイリンガルにする方法』平川裕貴(著)
・『英語学習は早いほど良いのか』バトラー後藤裕子(著)
・『異文化に暮らす子どもたち―ことばと心をはぐくむ』早津邑子(著)
【参考リンク】
・語学力と年収に関する調査(2014 年版) | Daijob ダイジョブ・グローバルリクルーティング株式会社
●ライター/Golden Bean(バイリンガル教育パパ)
●モデル/REIKO(SORAくん、UTAくん)