派遣社員の女性に多い!? “パワハラ一体型のセクハラ”の実態と対処法
2016年11月15日 | よみもの派遣社員の女性に多い!? “パワハラ一体型のセクハラ”の実態と対処法

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。
わが国で『セクシャルハラスメント』(以下“セクハラ”と略す)という言葉が一般的に使われるようになったのは1989年の新語・流行語大賞の新語部門でこの言葉が金賞を受賞したころからだったかと記憶しています。
そのころと比べればずいぶんと世間のセクハラに対する目は厳しくなり、女性が理不尽な不快感に苦しむことの少ない社会にはなったように思います。
しかし、筆者が最近気になっているのは“限りなくパワハラと一体化したセクハラ”で、絶対的に優位な立場を利用して卑劣な行為を行う人を見ていると同じ男性としてとても情けない気持ちになってしまいます。
都内でメンタルクリニックを開院する精神科・心療内科医のT先生は、『パワハラ一体型のセクハラが原因で適応障害などの大事(おおごと)に至ってしまう前に一度、心療内科の医師のところへ相談にきてほしい』と言います。
子育ても一段落してパートやアルバイト、派遣といった形でまた働いてみようと考えておられる女性のみなさんにも参考にしていただければ幸いです。

セクハラ被害の相談件数は、派遣労働者のほうが正社員の3倍以上も多い
T先生が言う“パワハラ一体型のセクハラ”とは、これまでも「対価型セクハラ」などと呼ばれてきた“職場における階級の優位性を利用して下位にある者に対して行う性的なハラスメント行為”に近い概念です。
製造業などの作業現場で監督・指導をする立場にある上司が、作業スペースの狭さを利用して作業員の女性に体を密着させてきたりすることもこれに当たるでしょう。
セクハラ自体が本来パワハラの一種であるとする考え方もありますが、筆者が近年この“限りなくパワハラに近いセクハラ行為”が目立つのではないかと感じていることには統計的な裏づけもあります。
厚生労働省が公表している『個別労働紛争の相談状況』や『派遣労働者実態調査』の直近の数字と、総務省が実施している『労働力調査』の雇用形態別雇用者数の数字などから算出すると、2014年以降のセクハラ被害の相談件数は派遣労働者で正社員の実に3倍以上も多いことがわかっています。
そのため、近年のセクハラは“単に性衝動に基づいたもの”と考えるより、“パワハラと一体化したもの”の方が多いと考えた方が自然だからです。
よほどのことがない限り無期限の雇用を保障されている恵まれた人たちによって、景況や業績といった理由で企業側の都合でいつ雇用契約を打ち切られてもおかしくない非正規雇用という弱い立場で働いている人たちが、理不尽で不快なセクハラ行為の被害に遭っている。
そうだとすれば、これは看過できないことなのではないでしょうか。
左手薬指のダミー指輪の効果も今は昔、既婚女性こそセクハラ被害に遭いやすい傾向が
しかもこうした“パワハラ一体型セクハラ”の加害者となっているような相対的に上位の職責にある人たちが、ここ数年来の傾向としてセクハラ行為の対象を“未婚女性”から“既婚の女性”へも広げてきていることが、このタイプのセクハラ問題をより深刻化させていると、前出のT先生は指摘しています。
『たとえば以前であればセクハラ行為の主たる被害者であった未婚の女性が、わざとダミーの指輪を左手の薬指にすることでセクハラ被害に遭う危険性を減らすことに効果がありました。「既婚者の女性と、面倒なことにはなりたくない」といった思いが加害者側にあったからです。
ところが最近は、「既婚の女性の方がセクハラ行為に対して我慢強い」みたいに相当身勝手な思い込みを抱いているセクハラ加害者が増え、ダミーの指輪のようなセクハラ撃退法が功を奏さなくなりつつあります』
このようなお話を日頃からセクハラ被害の相談に携わっている医師の口から聞くと、パワハラと一体化したセクハラというものは被害者の“生活”という人の暮らしの根源的な部分の弱みに乗じているため、かなり質(たち)の悪いものであるような気がしてきます。しかしそれでも、『対処法はある』と、T先生は言います。
パワハラ一体型セクハラの加害者は自分の立場が揺らぐことが何よりもこわい
『パワハラと一体化したセクハラ行為をする人は、被害者である非正社員の女性が抗議をすることはあっても“雇い止め”につながりかねない法的な手段にまで出ることはまずないだろうと高をくくっています。
非正規雇用の人にとっては数か月とか半年の単位でやってくる雇用契約の期限のときに会社側が「この人は面倒だ」と感じるような状態にあれば、雇用契約を打ち切ることに会社側には現行法上何の非もないため、適当な理由でもって雇い止めにしてくれるだろうと思っているからです。
したがって法的に闘う場合にはセクハラ上司が明らかに法に触れる行為をしているという証拠の収集が必要で、これは次の職場を探しておく必要がある非正社員のセクハラ被害者にとってはかなりの負担になります。
一方、パワハラ一体型セクハラへの対処法として、法的な手段ではなくわれわれ医師に相談していただくという方法が存在します。この場合法的に“闘う”のとはちょっと違って、被害者の心身の健康を“守る”という感じの対処の仕方になります。
パワハラ一体型セクハラの被害者にはストレスからくる集中力の低下、不安感、恐怖感、抑うつ感、イライラ感、わけもなく涙が出る、喉の異物感、頭痛、胃痛などの心療内科的な症状が伴うため、医師の立場で患者を守るというスタンスの対処法です』(50代女性/前出・心療内科医師)
T先生はこう言い、具体的には次のような段取りの対処法をおしえてくださいました。
パワハラ一体型セクハラの被害に遭ってしまったときには、
(1)事態をできるだけ落ち着いて省み、自分には非はなく悪いのはセクハラをする上司の方であることをまず自覚する
(2)その上で、セクハラ上司の上司にあたる立場の人の中で、できるだけ信頼がおけ自分の話をきちんと聴いてくれそうな人は誰かを選定する
(3)(2)ができたらわれわれ医師の方で事態の改善に有効と考えられる診断書を書きますので、(2)で選定した“セクハラ上司の上司”に診断書を携えて相談してください
パワハラ一体型のセクハラをする加害者は自分の立場が揺らぐことが何よりもこわいため、このような対処法が有効であるというのがT先生の見解です。
その点が“単に性衝動に基づいたセクハラ”と質的に区別されるということでした。
なお先生によれば心療内科や精神科のほか、レディースクリニックやウイメンズクリニックのような看板を掲げている医療機関であればほとんどのところでセクハラの相談にのってくれるとのこと。
法務関連の専門機関と連携しているクリニックもあるとのことです。
自分の立場の優位性や自分が手にしている権力をいいことにパワハラ一体型のセクハラをしてくるような上司に、泣き寝入りをつづけることはありません。
●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)
●モデル/倉本麻貴(和くん)