精神科は必要ナシ? 子どもの引きこもりで鬱になった親のベストな処方箋
2016年9月20日 | よみもの精神科は必要ナシ? 子どもの引きこもりで鬱になった親のベストな処方箋

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。
筆者は以前執筆したコラム『放置じゃ絶対治らない!? “引きこもり”が男性に多いワケと抜け出す方法』の中で、「今やわが国で50万人から100万人超にのぼるとされるニートやSNEPといわれるような“社会的引きこもり”の人が、精神神経科的な治療の手助けなしに自然に立ち直ることはきわめて困難である」というテーマのお話をいたしました。
大阪市で東洋医学も取り入れた『橋岡内科小児科診療所』を開業する医師の橋岡龍也先生はそのホームページの中で、
『ニートやSNEPといわれる人たちは、引きこもっている本人は「これでいいのだ」と思っているケースが多いのにもかかわらず、親御さんたちが概して心配のあまりに不眠や鬱(うつ)の症状を呈して我々医者のところを訪れる。
しかし、親御さんまで向精神薬や睡眠薬への依存症に陥ることを避けるためには、精神科的な治療を受けるのは引きこもっている本人たちだけにとどめた方がいい』
といった主旨のことをおっしゃっています。
これはどういうことなのか? 一緒に考えてみましょう。

精神科は社会性にまで関わる病気を治す場所
橋岡先生は内科が専門の医師でありながら、先生の診療所には鬱病の患者さんが数多く訪れており、ほとんどの人が完治に至っているといいます。
橋岡先生によれば、鬱病は内科学でいう『慢性疲労症候群』という身体の病気と重なる部分がとても大きい精神の失調状態であるため、漢方薬で内臓を整え機能を改善することで内臓と関わりの深い精神の失調状態は治せるということのようです。
これに対してニートやSNEPと呼ばれる人たちが陥っている“引きこもり”の症状は、それをきたす原因がその背景にある社会問題や経済問題、行政や政治の問題と深く関わっていると指摘。
こういう人たちは、もともと社会学や社会心理学、哲学といった隣接分野と関連が深い精神神経科の引きこもり外来などを受診するのが合理的だというのです。
簡単に要約するなら、引きこもりに苦しむニートやSNEPは精神神経科を受診すべきだが、引きこもりの子どもを心配するあまり鬱に陥っている親御さんは内科的治療を受けた方がいい、ということになります。
引きこもりが増加したのは、若者たちが労働のコスパの悪さに気づいたから
さて、橋岡先生はニートやSNEPといった引きこもりの患者さんが現代のわが国に増えた原因について、
『幼少の頃から消費者の意識を持った子どもたちが労働することのコスパ(コストパフォーマンス)の悪さに気づいたこと。
生まれつき何でも手にしている富裕層の子が特に努力をしなくても富や名声を得られる事実を横目で見ながら、一般庶民の子は努力したところで必ずしも報われるわけではないことを知り、働かないという最もコスパの高い生き方を選んだこと』
とする哲学者の内田樹さんの仮説を高く評価されています。
しかし、最近の内田さんは、“むしろ優秀な若者が、いまだに競争至上主義のような空気の漂う就活の現場に気持ち悪さを感じ、あえて就活をせずに里山暮らしや社会起業家の道へと向かいつつある傾向”を指摘しています。
そしてなおかつ、“以前だったら引きこもることにコスパのよさを感じていた若い人たちが、以前よりやや能動的な競争しない生き方を選ぶようになってきている”としています。
その意味では、わが国における社会的引きこもりの増加の問題は、筆者が過去のコラムで述べたような主旨に反して精神科医の力を借りずとも改善の方向に是正されているという内容の発言を、内田さんが折に触れてされていることを付け加えておきましょう。
現実に、2016年9月7日に内閣府から公表された調査結果では、“引きこもる人”の数そのものは前回の2010年の調査結果に比べて減っていることが確認できます。
内田さんの指摘の正しさを、ある意味で証明しているといえるのかもしれません。
もっとも、数は減っても“引きこもる人の高齢化と長期化”の問題が、今回の調査で新たに浮き彫りになってはいますが。
鬱に陥っている親御さんはまずは漢方を試してみては?
おしまいに今一度、引きこもるお子さんの将来を案じて不眠や鬱に陥っている親御さんたちに向けて一言申し上げたいと思います。
それは、橋岡医師によれば親御さんの方は“慢性疲労症候群という体の病気”の状態なので、いたずらに精神科を訪ねて向精神薬や睡眠薬の処方を受けることはおすすめできないかもしれないということです。
橋岡診療所のような東洋医学も取り入れた内科の医療機関で、漢方薬による治療を試してみるのもいいのではないでしょうか。
もっとも橋岡先生でさえも『漢方薬がなぜ効くのかは完全には解明されていません』とおっしゃるくらい東洋医学の分野はいまだに謎の多い世界ではあります。
ご興味がおありの方は漢方を扱っている病院へ相談にいってみてはいかがでしょうか。
【参考リンク】
・漢方勉強室 | 橋岡診療所
●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)