クラス中が感染! 病気の子どもを受け入れた「保育園」に責任はあるか
2015年9月25日 | よみものクラス中が感染! 病気の子どもを受け入れた「保育園」に責任はあるか

【ママからのご相談】
今、保育園や幼稚園では手足口病が大流行していて、親たちもかなり気を付けています。そこで聞きたいのですが、以前息子が保育園でおたふく風邪をうつされてしまいました。そのとき、病気を患っているのに、保護者が仕事を休めないという理由で登園してきた子がいて、その子が発端で一斉にクラスのみんなが病気になってしまったのです。小学校では、クラス閉鎖などがありますが、私立の保育園ではそのような措置がありません。こういった場合、登園させた親はもちろん悪いのですが、保育園も何らかの責任があるのでしょうか。
保護者と保育園が適切な対応をしていなければ、責任を負う可能性はあります。
ご相談ありがとうございます。アディーレ法律事務所弁護士の篠田恵里香です。
「子どもが感染病を患っているけど、仕事も休めないし……」と悩んでいるお母さんは多くいるかと思います。仕事を休めないという事情も分かりますが、会社に事情を伝えるなどして、できるだけ子どもと一緒にいてあげたいものですよね。
どうしても休めないと無理に登園させ、他の子どもに病気を感染させた場合、その保護者は、刑事上の責任や民事上の責任を負う可能性があります。

保護者が子どもの体調が悪いのを分かっていながら登園させた場合
保護者が、“明らかに感染症であること”を分かっていながら、子どもを休ませずに保育園に通わせるという行為は、「他の子どもに感染してしまうかも」と認識しながらあえて感染させ、傷病に陥らせる行為であるため、傷害罪に該当する可能性があります。少なくとも感染させたことに過失があるとなれば、過失傷害罪に問われる可能性があります。
また、あえて他人に病気を感染させる行為は、個人の健康を害する行動(民事上の不法行為)になるので、病気などで必要となった治療費や慰謝料などの損害賠償責任を負う可能性もあります。
いずれも、“その保護者の行動によって他の子どもが病気になってしまった”という因果関係の立証は難しいかもしれませんが、因果関係ありとなれば責任を負う可能性はあります。
また、保育園と保護者の間では、入園にあたり、“保護者の守るべき事項”を定めた契約書を交わしているはずで、このように契約に違反するような行動があった場合には、保育園から入園契約を解除される可能性もあるかもしれません。
保育園側が体調の悪い子どもを預かってしまった場合
保育園側が、明らかにぐったりしている子どもがいて、感染症の疑いが濃厚であるにもかかわらず、隔離しなかったことにより他の子どもに病気を感染させたような場合も、保育園側に(業務上)過失傷害罪などの犯罪が成立する可能性があります。ただ、実際には、“感染症と気づけたはずだ”という保育園側の過失を認められるか、はなかなか難しいかもしれません。
体調が悪い子どもがいたら、保育園側も適切な対応を
保育園における感染症予防については、『保育所における感染症対策ガイドライン』を厚生労働省が発表しており、通常、保育園では、医療機関発行による“登園許可証”や“治癒証明書”などを確認したうえ、病気の園児を登園させる運用を行っています。
ここで、児童福祉法85条は、『児童福祉施設が、この法律もしくはこの法律に基づいて発する命令又はこれらに基づいてなす処分に違反したときは、都道府県知事は、同項の認可を取り消すことができる』と定めています。
したがって、“感染症の防止に努めなかった”など、保育園の運営が著しく適正を欠くと判断されるときは、命令等が発せられ、その保育園がこの命令にも従わないとなれば、事業停止や、認可の取消しも可能性としてはありえることになります。
保育園側が、過失によって他の子どもに病気を感染させたということになれば、個人の健康を害したこと(不法行為)や子どもの安全を守る約束を果たせなかったこと(債務不履行)により損害賠償責任も負うことになります。
保育園は、他のお子さんたちとの共同生活の場です。だからこそ、保護者による他の園児への十分な配慮が必要不可欠といえます。自分勝手な理由で病気の子どもを登園させるようなことは絶対にしてはなりませんね。
【参考リンク】
・保育所における感染症対策ガイドライン | 厚生労働省(PDF)