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プロの証!? 理想を求めて転職を繰り返す人は“青い鳥症候群”なのか

プロの証!? 理想を求めて転職を繰り返す人は“青い鳥症候群”なのか

【女性からのご相談】
30代の商業デザイナーです。私の職業は正社員率が低いプロフェッショナルな仕事です。大学を卒業して以降、アルバイトや契約社員といった形でより高いやり甲斐を求め職場を次々に変えてきました。先日、職場にいる同僚の正社員女性から、「あなたみたいに理想を追いかけて職場を転々とする人を“青い鳥症候群”って言うんだって」と言われて以来、気分が沈み頭痛が続いています。夫は、「同僚の言うことなんか気にするなよ」と言ってくれます。でも、一度受けた心の傷は深く頭痛もなかなか治りません。心療内科を受診したところ、「実力を伴った青い鳥症候群の人の存在は貴重であり、必要です」と医師に励ましていただきました。その真意を教えていただけませんでしょうか。

a 今は“辞めたら次の職場がない”時代。青い鳥症候群の人は相当の実力者です。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

“青い鳥症候群”とは、1983年に精神科医の清水将之氏が提唱した概念です。「今の自分は本当の自分ではない」という思いからいつまでも夢を追いつづけ、理想の職を求めて転職を繰り返したり、仕事に直接結びつくわけでもない大学や大学院・専門学校やカルチャー教室などを転々として勉強を続けるような人のことを指す、一時期かなり流行した言葉です。

ところが、今はこの概念が提唱された当時とは世の中の状況が変わり、普通のサラリーマンにとっては“辞めたら次の(正規雇用の)職場がない”社会になっています。今の職場を辞めても次の職場があり、前の職場のとき以上に活躍できる人というのは相当の実力者であり、プロフェッショナルな人であると言うことができます。

その意味では“青い鳥症候群”という言葉自体、2015年の現在においては大学(及び大学院)や専門学校などを転々と変える学生や生徒に関して主に使われるべき言葉であって、ご相談者様のような立派な社会人のことを“青い鳥症候群”と呼んだ同僚女性は、間違っていると思います。

それでは、心療内科の先生が言う“実力を伴った青い鳥症候群の人”はどんなところが貴重で素晴らしいのか、都内でメンタルクリニックを開業する精神科医に聞きながら、考えてみましょう。

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意思と技術を持つ“青い鳥症候群”の人は、もはや“青い鳥症候群”とは言えません

『青い鳥症候群という概念が提唱されたころのわが国は、経済の安定成長期からバブル経済期へと進んで行く過程にあり、サラリーマンが会社を辞めても必ず次の就職先が見つかる時代でした。提唱者である清水先生はそのような時代状況の中にあって、本当は単なる怠け心や飽きっぽさ・こらえ性のなさが理由なのに、“理想”という名のもとに転々と職を変えるホワイトカラーのエリート・サラリーマンたちに警鐘を鳴らす意味を込めて、この概念を発表したのだと思います。

それから30年以上が経った今、わが国の雇用状況は当時とまるで違っています。定型業務のIT化でただでさえ“人間”が要らなくなったうえ、人間にしかできない分野でも企業が優秀な人材を非正規で雇用できるようになったため、サラリーマンにとっては“一度辞めてしまったら次の(正規雇用の)職場はない”時代に入っています。

このような時代にあっては、もはや“社会人”に対して“青い鳥症候群”という呼び方をすることは適切ではないとも言え、この概念が適用されるべきなのは“いつまでも仕事に就こうとせずに大学や大学院、専門学校やカルチャー教室などを転々とする青年たち”が中心になってきているように思います。私はそのような人たちのことを“スチューデント青い鳥症候群”と呼んでいます。そしてその概念は、いわゆる“ニート”や“SNEP”といった概念とも関連し、より一層複雑さを増していると言うことができます。

現代において、社会人で“自分の能力を最大限に発揮できる所を求めて次々に職場を変える”ことができる人は、むしろ相応の“強い意思”と“専門技術”を持った、“プロフェッショナル”と呼ぶ方がふさわしく、“青い鳥症候群”と呼ぶことそのものに問題があるような気がします』(50代女性/都内メンタルクリニック院長・精神科医師)

文豪・夏目漱石も、広島カープの黒田選手も、ある意味“青い鳥症候群”です

『ただ単に“今よりもっと自分らしい自分を求めて職場を変える人”のことを“青い鳥症候群”と呼ぶのであれば、愛媛県松山市の尋常中学校教師から熊本市の第五高等学校の英語教師、英国留学を経て第一高等学校と東京帝国大学の講師、明治大学の講師などを歴任し、40歳になってついに天職である小説に専念するため一切の教職を辞して朝日新聞社に入社した明治時代の文豪・夏目漱石などは、青い鳥症候群ということになってしまいます。

また、プロ野球の広島カープを皮切りに米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャース、ニューヨーク・ヤンキースと渡り歩いた後、メジャー球団からの高額のオファーが複数あったにもかかわらず、「一番やり甲斐が感じられる」という理由で2015年から古巣の広島カープに復帰した黒田博樹投手なども、青い鳥症候群ということになるでしょう。

でも、こういったプロフェッショナルの人たちを単なる“青い鳥症候群”という風に呼ぶことはけっしてありません。心療内科の先生がご相談者様のことを、「貴重な存在」と言われた理由は、より“いい仕事”をするために職場を変えるご相談者様のような人の存在こそが、共に生きる私たち一人ひとりを勇気づけるのだということを仰りたかったのではないかと思うのです』(50代女性/前出・精神科医師)

「学校にだけは行ってますよ」的な“青い鳥症候群”の方が、むしろ心配です

こうしてドクターの参考意見を聞くと、ご相談者様は同僚女性からやや侮蔑的な意味で発せられた、「青い鳥症候群なんじゃないの」という言葉など、一切気になさらない方がいいのではないかと思います。

診察してくださった心療内科の先生や旦那様がおっしゃる言葉の方だけを耳に入れてご自分の仕事に没頭されることの方がよほど建設的です。また、そうしているうちに知らず知らず頭痛の方も軽くなっていかれるのではないかと思います。

『問題なのはむしろ、「学校にだけは通っているんだから、ニートではありません」という意識の“青い鳥症候群”の人たちの方ではないかと思います。“勉強”をすればいつの日か幸せの青い鳥をつかまえられると思い込み、学んだことを生かして仕事にチャレンジするということをしないうちに気がつけばご相談者様と同じくらいの年齢を迎えてしまう。今、わが国ではこういった傾向の若い人たちが増えているように思えます』(50代女性/前出・精神科医師)

もっとも、少子化が進んだ今のわが国の家庭においては、むしろ親の方が子どもに巣立って行かれる寂しさと向き合うことができずに、若者たちの自立心を妨げている面も見落とすことはできません。

しかし、こういった“スチューデント青い鳥症候群”の若者たちにしても、ご相談者様のように恋愛をして結婚をなさったり、あるいは親の死を経験したりして精神的に大人になり、青い鳥症候群の状態から立ち直るといったことはけっして珍しくありません。自分が、「悪い意味での青い鳥症候群なのかな」と思ったら迷わず心療内科か精神科のクリニックを訪ね、専門の医師に診察してもらってください。きっといい答えが見つかるはずです。

【参考文献】
・『青い鳥症候群』清水将之・著

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●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

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