引きこもりの未婚女性が増加中!? 孤独な引きこもり『SNEP』の実態と脱出方法
2014年11月25日 | よみもの引きこもりの未婚女性が増加中!? 孤独な引きこもり『SNEP』の実態と脱出方法

【女性からのご相談】
先日、朝の全国放送の人気テレビ番組で、年齢が高齢化する引きこもりとして、『未婚で無職の“大人の女性ひきこもり(女性SNEP)”が増加中』という特集を組んでいました。
番組は、仮名のA子さんの写真が紹介され、「SNEPの状態から抜け出す手伝いをしてやらなければならない」という前提で編集されていたような気がします。
また最近では、ひきこもりUX会議(一般社団法人、代表理事:恩田夏絵)や引きこもり女子会(全国各地から支援者・家族・当事者が参加)などの開催、場所が話題になっていたりもします。
ひきこもりUX会議の参加者からはひきこもり女子の自らのリアルな経験の声なども紹介されています。
さらには内閣府が初めて中高年世代の引きこもりの実態調査を推計で始めようとしています。
実はわが家の40代の娘がまさに“女性SNEP”当事者です。休日、平日関係なく自室の部屋からは基本的に出てこず、食事のために近所のコンビニなどへ買い物で外出はします。
政治家や文化人の中にも、「SNEPは農業などに強制的に就労させるようにした方がいい」といった趣旨の発言をされる方がおり、「世の中の邪魔者」扱いに聞こえます。
持ち家は独立していった息子たちでなく娘に譲るつもりなので住居費はこの先もかかりません。ぜいたくさえしなければ娘が一生暮らせるだけの預金も既にあります。
“女性SNEP”は非難されなければならない存在なのですか。私のリウマチが悪化してからというもの、お勤めも辞めてずっと介護してくれたり、家事手伝いをしている優しい娘なのですが。
こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。
おっしゃる通りで、既に生涯の生活設計ができたのでしたら他人がとやかくいうべきことは何もありません。ただ、人生は不測の事態が起こりえます。
ぜいたくさえしなければ一生暮らしていける額だとあなたが思っていた預金は、病気や事故などの不測の事態でたちまち消えてなくなる場合もあります。
また、住居も古くなればいろいろなほころびが出てきますから、改築費として思わぬ大金が出ていくことだって考えられます。
今は親が支援していても、ふとしたことで将来経済的に厳しい状況に陥るおそれがあるのです。そのようなイメージは共有できるかと思います。
都内でメンタルクリニックを開業し長年にわたって“ひきこもり”の女性患者さんたちの診察にあたってきた精神神経科医師に伺った分析を参考にしながら、その原因と対処法を考えてみたいと思います。
SNEPとは何か
『“SNEP(スネップ)”とは、“Solitary Non-Employed Persons”の頭文字をとった言葉で、孤立無業者を意味します。
東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏が2012年に提唱した概念で、「20歳以上59歳以下の未婚の無業者のうち、普段ずっと一人でいるか、一緒にいる人が家族以外にはいない人々」を指す用語です。
“NEET(ニート)”が15歳から34歳までの若年無業者を指すのに対してSNEPは35歳以上59歳以下の中高年をも含め、ニートが無業者を求職活動の有無によって区別した概念であるのに対し、SNEPは無業者を友人・知人などの対人関係の有無によって分けたものです。
総務省が5年に1度行う、社会生活基本調査を基に玄田教授らのグループが集計した結果によると、わが国では2011年時点で仕事も通学もしなかった20~50代の未婚男女256万人のうち、SNEP(孤立無業者)に該当する人が162万人いました』(精神神経科医師)
“女性SNEP”が注目されている理由
『そもそも玄田教授も、「SNEPには男性・中高年・高校中退を含む中学卒ほどなりやすい」と述べていました。
これは、女性が男性に比べると本来コミュニケーション能力が高く、自分の主義・信条などは置いといて生活に密着したレベルでの他人との交流が男性よりもずっと得意であることに起因しています。
ところが、最近のいわゆる“女性SNEP”とされる患者さんたちからの訴えを聴いていると、離婚・雇い止めによる失業・親の介護などをきっかけに孤立してしまったというケースがとても多いのです。
元来コミュニケーションに関してはタフであったはずの女性までもが、どちらかというと社会的な要因からSNEPに陥るような時代になってきてしまったという点が世間の注目を浴びているのだろうと思われます』(精神神経科医師)
逆に男性の引きこもりについての詳細は以下の記事をご覧ください。
SNEPになりやすい人の特徴3つ
- 20歳以上59歳以下
- 学生じゃない
- 未婚である
- 無職である
- 普段一人で過ごしているか、一緒にいる人が家族以外にいない
このように、ニートや引きこもりとは定義が異なるSNEPですが、一体どのような人がなりやすいのでしょうか。
(1)ストレスを抱えがち
社会に出ると、周囲との関係など星の数ほど理不尽な出来事に出くわします。普通の人ならば「なにくそ!」とバネにして頑張ったり、友人や同僚と飲んで「もう忘れよう!」と気分転換してやり過ごすものです。
しかし、SNEPになりやすい人はストレスを抱えやすく、上司からの注意や同僚の陰口などをずっと引きずり、神経をすり減らしていく傾向にあります。
毎日のようにのしかかるストレスをうまく解消できずにいると、いつしか仕事や人間関係に苦痛を感じるようになります。
そしてついには、家に引きこもって誰とも接することのない生活を送るようになってしまいます。
ストレスが溜まってしまう背景についての詳細は以下の記事をご覧ください。
(2)逃げ癖がついている
逃げ癖がついている人もSNEPになりやすいと言われています。
対人関係や仕事などで少しでもトラブルが発生すると、「面倒くさい」と言って問題を放置したり逃避したりします。
その結果、社会からどんどん距離を置くようになり、一人で過ごすようになります。
(3)大きな失敗をしたことがある
仕事や恋愛などで、人生に大きく影響するような失敗をしてトラウマを抱えてしまっている人は、疑心暗鬼になって引きこもりがちになります。
心の中に大きな傷を負っているため、社会に復帰するのが怖くてズルズルと孤立無業状態を続けてしまいます。
女性をSNEPに陥れる2つの理由
基本的に男性に比べてコミュニケーション能力が高いと言われる女性は孤立しづらい傾向にありますが、近年では女性のSNEPが増えていますね。
なぜなのでしょうか。以下では、女性がSNEPになってしまう原因についてお話ししていきます。
大きな2つの理由は、離婚と介護の問題です。
詳しく見ていきましょう。
(1)離婚
現代では3組に1組が離婚していると言われています。男性の場合は結婚当時から働いている場合が多いため、離婚しても仕事にそこまで影響はありません。
しかし、女性の場合は結婚と同時に専業主婦になる人やキャリアを捨ててパートに仕事を変える人が多いため、離婚すると経済的に自立しづらい傾向にあります。
たとえ復職できたとしても、一人暮らし(独身時代)の労働条件(給料や待遇)よりはランクダウンしてしまいます。
そのため、自立ができない女性たちは実家へ戻ります。離婚した恥ずかしさや就労条件の厳しさに失望した女性たちは次第に社会と距離を置くようになり、孤立してしまいがちになります。
離婚についての詳細の記事は以下をご覧ください。
(2)介護
日本では昔から“介護は女性の仕事”と考えられてきました。そのため、現代でも自分の両親や義両親が要介護状態になった場合は女性が面倒を見る傾向にあります。
介護は心身ともに大きな負担がかかり、自由な時間もほとんどなくなります。否応なしに社会と断絶された生活を送ることにもなります。
そのため、望まないうちに自然と引きこもりの状態になってしまい、SNEPになってしまうのです。
介護についての詳細は以下の記事をご覧ください。
SNEPになってしまうことの問題点4つ
では、SNEPになってしまうことの問題点とはどのようなものがあるのでしょうか?
4つあると言われています。
- うつになりやすくなること
- 長期化するほど社会復帰が難しくなること
- 生活破綻する可能性が大きいこと
- 恋人ができないこと
それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)うつになりやすくなる
うつ病になりやすい人の特徴の一つに、“交友関係が狭い”というものがあります。
もちろん、“友達が少ない=うつになりやすい”という明快な図式は成立しませんが、傾向としては多く見られるようです。
交友関係が狭いと、一定の価値観に縛られやすく、極端な思考に陥りがちです。例えば、日頃家族としか接点がない人は、親の「お前はダメな人間だ」などの言葉を真に受けて悩んでしまいます。
このとき、友達がいれば相談して悩みを解消したり、背中を押してもらったりすることができるでしょう。
しかし、家族以外に接点がない場合は、気持ちを整理したり気分転換をしたりする機会がないため、長期間考え込んでしまいがちです。
その結果、うつや気分変調症などの精神疾患を引き起こしやすくなるのです。
うつに関する詳細は以下の記事をご覧ください。
(2)長期化するほど社会復帰が難しくなる
これは引きこもりやニートなどにも通じるポイントですが、SNEPも長期化するとどんどん社会復帰が困難になっていきます。
単純に職歴に空白ができるだけでなく、家族以外の人と話す機会がないことでコミュニケーション能力も落ち、精神的にも打たれ弱くなっていきます。
そのため、たとえ雇ってくれる会社が見つかったとしても、長期間SNEPだった人は仕事を続けることが普通の人よりも困難になります。
社会復帰に関する詳細は以下の記事をご覧ください。
(3)生活破綻する可能性が大きい
当たり前ですが、仕事もせず交友関係もなければ経済的に自立することはできません。
SNEPの人の中には、「親が養ってくれるから大丈夫」と考えている人も少なくありません。
もちろん、「このままではいけない」とも考えていますが、前者の気持ちの方が強く出てしまうのです。
親が元気に働いていたり、年金を受給していたりして収入源が確保されている間は問題ありませんが、もしも両親に不測の事態が起こった場合、親に生活を頼っているSNEPの人は一気に生活の糧を失うことになります。
「働くのは親が死んでからでいいや」と考えていても、実際には就職活動にはある程度のお金がかかりますし、最初の給料が入るまでに1か月は待たなくてはなりません。
長期間SNEPの状態であればそもそも仕事に就けるかどうかも分かりません。
経済的に自立できないということは、すなわち生活破綻する可能性が大きいということなのです。
(4)恋人ができない
家族以外に交友関係を持たない人は、結婚はおろか恋愛をするチャンスすらありません。
後述しますが、SNEPを脱するためにはある程度の“心のリハビリ”が必要となります。
友達や恋人との交友というのは、心の傷を癒やす方法として大きな効果を発揮します。
交友関係が絶たれた状態では、友達から異性を紹介される機会も皆無ですし、もちろん恋愛もできません。
仮に、兄弟や親戚などから異性を紹介されたとしても、仕事なしコミュ力なしの状態では恋愛まで持っていくことは難しいでしょう。
SNEPに苦しむ人の声
孤立無業者であるSNEP。実際にSNEPの状態にある人は何を考え、何に悩んでいるのでしょうか。
以下では、2ch(にちゃんねる)などのネット上に書き込まれたSNEPに悩む人たちが回答してくれた声・現実の体験談をご紹介します。
- 毎日死にたい
- 親の死後が不安
- まるでアリ地獄
- 親を直視できない
それぞれ経験者の彼女たちの声を見ていきましょう。
(1)毎日死にたい
『私は39歳の時に、職場でいじめ・パワハラを受けてからというもの、家から一歩も出ず誰とも会わない生活を続けています。かれこれ2年目になりますが、毎日不安で死にそうです。親のためにも精神科などに通院した後、社会復帰したいですが、人間不信になってしまい、用事があってもどうしても足が動きません。このままいっそ死んでしまおうかと、毎日考えています』
(2)親の死後が不安
『私はSNEP歴5年ですが、現状に特別焦りを感じません。家庭の収入で十分生活できるし、ネット環境も整っているから快適・安心。でも、中卒だし、ときどき親が死んだ後どうするんだろうって考えます。そういうときはゲームしたりアニメ見たりして気分転換しますが、ふと不安に感じることはあります。大学生とかが羨ましい。』
(3)まるでアリ地獄
『3年前に体調を崩して引きこもり状態でした。その時は空っぽ状態でしたが、半年前から積極的に就活をしています。でも職歴も資格もコミュ力もない私は相手にされません。引きこもりな私は社会的にゴミなんだということを知りました。SNEPは本当に怖い。一度陥ったら一生出られないアリ地獄のようです』
(4)親を直視できない
『毎日毎日とにかく不安で、社会に居場所がないんじゃないかと、そのイライラを両親にぶつけています。でも、本当は申し訳なくて、ごめんねって思っています。こんな娘になってしまってごめんねって。罪悪感から親を直視できず、ご飯も一緒に食べられなくなりました。毎日心の中で謝りっぱなしです』
SNEPから抜け出す方法4つ
一度なってしまったらなかなか抜け出せないSNEP。どうすれば現状を打破することができるのでしょうか。
SNEPから抜け出す方法は4つあります。
- ネットを活用して社会復帰をする
- とにかく友達を作る
- ボランティアをする
- 介護は他人に任せてみる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)ネットを活用して社会復帰をする
長らくSNEPの状態にあった人は、いきなり社会に戻ることに対して計り知れない不安を抱えています。
そのため、いきなりハローワークに出向いても良い結果は得られないことが多いです。
多くの場合は社会復帰の不安に打ち勝つことができず、「自分には無理だ」と諦めてまだズルズルとSNEPを続けることになります。
しかし、ネットが発達した現代では、何も外に出ることだけが仕事の形ではありません。今はネットを通じて多くの仕事をすることができます。
いきなり社会復帰するのが怖いという人は、まずそういった自宅でできる仕事から始めてみましょう。
続けていくうちにスキルを磨くことができ、自分に自信をつけることができます。
(2)とにかく友達を作る
今の世の中、友達を作る手段は数えきれないほどあります。インターネットを使えば同じ趣味を持つ人を簡単に見つけることができますし、交流することもできます。
とにかく毎日話し合える友達を作りましょう。まずはネットの上だけの友達でもいいです。人付き合いに少しずつ慣れていき、自信がついてきたらオフ会などで実際に会ってみるのもいいでしょう。
社会復帰できずに悩んでいるあなたのことを、きっと励ましてくれる存在になります。
(3)ボランティアをする
SNEPの人の多くは、自分に自信がありません。自分の才能や性格では社会で生きていけないと思っているのです。
しかし、社会で生きていく上で一番大切なのは才能でも性格でもなく“自信”です。それがたとえ根拠のない自信であっても、人は自信のある人に魅力を感じるものだからです。
自信をつける最善の方法は、“他者貢献”をすることです。人は他者に貢献することで、「自分は社会の役に立っている」という感覚を持つことができ、“幸福感”や“充実感”を得ることができます。
他者貢献をするには、ボランティアがうってつけです。ボランティアには職歴も才能もいりません。自分の状況を打破するために、まずは誰かの役に立ってみましょう。
(4)介護は他人に任せてみる
両親や義両親の介護でSNEPに陥っている人は、思い切ってヘルパーなどを頼ってみるのもいいでしょう。
罪悪感を抱くかもしれませんが、介護される側も自分を介護することであなたが不幸になっていくのは不本意でしょう。
自分にとって何が一番やりたいことなのか、今一度考え直してみてください。
SNEPを脱した女性の例
『SNEPが問題視される社会的理由として、生活保護費など社会保障費の増大への懸念と、親世代が潤沢な貯蓄を消費に使わずSNEPの子どものために寝かせてしまうなどがあります。
しかし、それらはそれぞれに人権を持った個人がとやかくいわれるべきことではありません。
「強制的に就業させるべき」などといった政治家の発言ももってのほかで、そんな契機で仕事に就いても長続きするはずがありません。
ただ、人生は不測の事態が起こりえるものですし、何より人間は仕事を通してアイデンティティーを獲得できるという面があります。
預金の取り崩しだけで生きていくのも娘さんにとってはつらいことです』(精神神経科医師)
ほんの一例にすぎませんが、非正規雇用であったがために突然の雇い止めに遭い、以来3年の間SNEP状態にあった40代の女性が、心のリハビリのつもりで学生時代に趣味としていた文章書きを再開したら、そのうちにブログ記事の執筆代行の在宅ワークで月に何万円かのお金を稼ぐようになったという実際の話があります。
しかも、その女性はネタ集めのために始めたSNSを通じて幾人かの友人もでき、今では自宅にいながらSNEP状態を脱したとのことです。
SNEPの人が社会復帰するときはこんなバイトに注意!
さて、SNEPから抜け出そうと勇気を奮い立たせて無事仕事が見つかりました。しかし、そこがトラウマ製造工場みたいな職場であればより一層社会復帰が難しくなります。
SNEPから抜け出す最初の仕事選びとして、以下の3つのバイトは避けましょう。
- コンビニ
- 飲食店
- アパレル
それぞれ理由と詳細を見ていきましょう。
(1)コンビニ
コンビニは意外と高いマルチタスク能力が求められる上、お客さんからのクレームもひどいです。
場合によっては暴言を吐かれる場合もあります。社会復帰したてではかなりキツいので、なるべく避けましょう。
(2)飲食店
飲食店も社会復帰第一弾のバイトとしては避けたいところです。
女性が飲食店で働くには、とにかく社交力が必要となります。居酒屋などの場合は声量の大きさや機転の利いた対応が求められることも日常茶飯事です。
飲食店は最初の仕事選びとしてはナンセンスだといえます。
(3)アパレル系
アパレル関係のバイトもやめておいた方がいいでしょう。自分自身のファッションセンスも問われますし、なによりコミュ力がないと勤まりません。
よっぽど外見と内面に自信がないと続かない職業です。直前までSNEPだった人には難しいでしょう。
まとめ
「女性がSNEPになってしまう理由」や「SNEPの抜け出し方」などについてご紹介してきましたが、いかがでしたか?
SNEPから抜け出すには、自信をつけることが大切です。どうしても社会復帰が難しいという人は、ネットでのビジネスやボランティアから始めてみてはいかがでしょうか。
●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)
●追記/パピマミ編集部