認知症の親にイライラ! 在宅介護による子どもへの影響とは
2014年10月28日 | よみもの認知症の親にイライラ! 在宅介護による子どもへの影響とは

【パパからのご相談】
50代。早期定年制度を利用して退職金をもらい、仕事を辞め、認知症(高度/要介護3)の父親を自宅に引き取り介護しています。親の店舗兼住居は処分しました。つい数年前まで家業の雑貨店に立ち元気だった父の姿を思うと、情けなくなり、父を怒鳴ったうえ意地悪をしてしまいます。車椅子に乗っているのに手を伸ばして手すりをつかもうとする。夕方になると、「家に帰りたい」と嘆く。そんな父にいら立ち、大声を出して叩いてしまいます。
父を引き取ってから妻は働きに出ていますが、祖父と同居するようになった8歳の息子はそんな様子をいつも見ています。人間として在宅での介護にはこだわりがあるのですが、こんな毎日は子どもに悪影響を及ぼさないか心配です。何度か展覧会で入選した油絵の趣味も介護生活に入ってからは描く気が起きません。
社会的支援を活用して時間を作り、あなた自身が次の人生に踏み出しましょう。
こんにちは、ご相談ありがとうございます。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。
今のままの状態はあなたにとってもお父さまにとっても、お子さんにとってもいいはずはありません。在宅介護にこだわるのはとても尊いことですが、こだわりがあるのであればなおのこと、これまで以上にデイサービスなどの社会的支援を活用して、あなただけの時間を作り、あなた自身が次の人生に踏み出すことが求められていると思います。
以下の記述は都内で精神科・神経内科クリニックを開業している医師に伺った話に基づいて、進めさせていただきます。

認知症とは何か
厚生労働省によれば、認知症とは『生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失すること』で、『日常生活・社会生活を営めない状態』を言います。つまり、一般的に思われているような単なる“物忘れの病”ではなく、“人格消失の病”であるという点に認知症の残酷さがあるのです。
『体の病気であれば体の調子が良い日にあなたへの感謝の言葉のひとつも聞かれるでしょう。認知症の場合は患者さんの人格がかつて大好きだったその人の人格ではないため、「ありがとう」のひとことすら言ってもらえません。当然、介護する側とすれば、「自分がこれほど頑張っているのに」という何ともやるせない気持ちが積もり、怒声や意地悪という形になって現れたりするのです』(50代女性/精神科・神経内科クリニック院長、医師)
お子さんはいら立っているあなたより、今より“スゴい”あなたに会いたがっている
『高度の認知症で要介護3以上ともなればトイレも一人ではままならず、自分が今暮らす家にいるのに、「もう家に帰りたい」と言ったりすることもしょっちゅうかと思います。「商売上手で頭も切れ、大好きだったあの父が」と考えると、ついつい、「ここがお父さんの今の家じゃないか」と怒鳴ってしまいそうにもなるでしょう』(50代女性/前出精神科・神経内科クリニック院長、医師)
お子さんは怒鳴るあなたを見るのが嫌なことは疑う余地もありません。ただ、おじいちゃんのことを怒鳴るあなたを心の中で責めるているというよりは、どちらかというと、「パパは疲れていてかわいそうだ」といった感覚ではないでしょうか。
お勤めを辞めてまでおじいちゃんの介護に専念するあなたの存在は“悪影響”どころか、“生きることについて考えさせてくれる先生”となっています。だからこそ介護に疲れて沈んだあなたではなく、今よりもっと“スゴい”あなたに会いたがっているはずだと思うのです。
あなただけの時間を作ることで、好循環が生まれてくる
『どんなに高度なレべルの認知症になってしまった親でも人として在宅での介護を続けたいという基本的な姿勢は尊敬に値します。ですがショートステイやデイサービス、リハビリなどの社会や地域の支援も今後は積極的に活用しながら、なるべく自分だけの時間も作ってください』(50代女性/前出精神科・神経内科クリニック院長、医師)
ご相談によると油絵の腕前はセミプロ級のようですね。退職金も受け取り、奥さまも働いていらっしゃるということであれば、第二の人生を画家として生きてみるということも、これからの数ある選択肢の一つとして、考えられませんか。お子さんはきっとあなたを“スゴい”と感じ、尊敬の眼差しを向けるはずです。今は、インターネットを使って作品を広く国内外の大勢の方々に鑑賞してもらうことができますし、セミプロ画家の描いた絵を百貨店やホームセンターなどで展示販売してくれる信頼のおける業者もあります。
あなたが生き生きとしてくることはお子さんにとってもこれ以上なくうれしいことですし、あなたやお孫さんのことがあまり分からなくなってしまったお父さまも、その空気で、幸せな気分を感じられるのではないでしょうか。
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●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)