少子化に拍車がかかる!? 産婦人科医が足りない日本の背景3つ
2014年10月24日 | よみもの少子化に拍車がかかる!? 産婦人科医が足りない日本の背景3つ

【ママからのご相談】
2人の娘を持つ30代主婦です。最近、ニュースで産科医不足が危機的な状況の地域(県)があると知りました。私の住んでいる県も含まれていました。確かに近所には産婦人科の病院がなく、車で40分くらいかかる隣町まで行かないとありません。将来的に、産科医不足は解消されるのでしょうか?
”激務”と“医療訴訟のリスク”で新人医師が敬遠、女性医師の離職防止も。
こんにちは。ママライターのKOUです。
産科医不足の問題は、新聞やテレビのニュースでよく取り上げられていますよね。
ご相談者さんのおっしゃる通り、最近の新聞などの報道で、都道府県間で最大2倍程度、産科医数に格差が生じていることが日本産科婦人科学会などの調査で明らかになりました。中でも、福島、千葉など9県では、35歳未満の若手医師の割合も低く、産科医不足が将来的な見通しも立たない危機的状況にあるということです。
一方、厚生労働省がまとめた2013年の『医療施設調査・病院報告』の概況によると、『産婦人科・産科を設置している病院数は同年10月1日現在で前年より12少ない1375施設で、23年連続の減少となり、年々、産科のある病院自体も減っている』のが現状です。
地域差はありますが、一連の産科医不足の背景には、少子化による患者数の減少とともに、夜間・休日の対応が多い激務な就労環境、医療訴訟のリスクの高さなどが指摘されています。

産科医不足の背景3つ
(1)激務な就労環境
『大学病院に勤めていましたが、緊急対応や夜勤が多く、その割には他の科の勤務医より給料が格段に良いわけではなかったです。体力や気力が続かず、退職しました』(元大学病院の産科・女性勤務医/30代後半)
病院で働く産婦人科医の労働環境について、前出の日本産科婦人科学会が2008年に行った調査では、オンコールなども含めた月平均の拘束時間が372時間にまで上ったそうです。さらに、当直回数も大学病院で月平均4.9回となり、同会が、「法令基準を大幅に超えて勤務している医師が多数存在している」などの見解を示すほど、過酷な職場であることを物語っています。
医療関係者によると、産科医の一般的な勤務状況は当直や拘束がつきものだと言います。例えば、分娩を多く取り扱う施設での当直の実態は、十分な睡眠もとれない夜勤で、しかも翌日は通常勤務なので、外来や手術などをこなさざるを得ないのが実情だそうです。
(2)医療訴訟のリスク
『産科医は医療事故による訴訟が多いです。そのリスクの高さから、開業医の中には、婦人科だけの診療に移行する人もいます。激務だからこそ、医療事故が起きる可能性も高いと思います』(産科の男性開業医/50代)
過去には、帝王切開手術を受けた産婦を死亡させたとして、福島県内の産科医が逮捕される事件(2006年)がありました。当時、その産科医の行為はメディアで、“医療ミス”として報道され、最終的には裁判で無罪となったものの、“医療訴訟のリスクの高さ”を印象づけた出来事でした。
(3)新人医師も産科を敬遠
2004年4月から始まった医師臨床研修制度による研修の義務化に伴い、新人医師がさまざまな科を研修することで、勤務状況が厳しい産科などは敬遠される傾向が高まっていると言います。
さらに、”激務”で“ハイリスク”な仕事を続けるだけのモチベーションが見つからず、経験を積んだ産科医が現場から立ち去ってしまう現状も、産科医不足の一因となっているそうです。ベテラン産科医でさえ離職してしまう状況ですから、結婚や出産を控える女性医師が十分に活躍できる環境も整っていないようです。
今後はどうなる?
国は、「分娩に関わる医療事故により脳性麻痺となった子どもや家族の経済的負担を補償する」、といった『産科医療補償制度』を、2009年1月から始めるなど、訴訟を減らすための対策に取り組んでいます。
とはいっても、医療関係者は次のように指摘しています。
『安全なお産ができる体制を確保するには、産科医の増加が必須であり、産科医の増加なくして待遇や環境の改善は進まない』
ですから、年々、女性医師の比率が高まっている現状を踏まえ、医師数増加には、まずは女性医師の確保が必須だと言います。女性の離職防止を含めた医師の確保を目指し、当直翌日の勤務や育児中の勤務を緩和するなど、“勤務体制の整備”“子育て支援”“復職支援”といった結婚・出産を経験しても続けられるような職場環境づくりが急務なようです。
産婦人科医が加入する日本産婦人科医会でも、『新人の60%を占めるのが女性医師。この女性医師たちの就労継続がなければ、産婦人科医療は破綻する』などの声が上がっています。
また、同会は産科医数の地域差を解消するため、地域枠入学者への産婦人科専攻の勧誘をはじめ、クリニックの地域医療への参入を促すなど対策を検討しているそうです。
いかがでしたでしょうか?
産科医不足に関しては、今後もメディアで取り上げられるとは思います。今回のコラムを参考にしていただいて、動向を見守っていただけたら幸いです。
【参考リンク】
・産科医不足と医療崩壊(PDF)
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・知っておきたい自宅出産や助産所出産の危険性4つ