帝王切開出産の際に適用される麻酔の種類3つ
2014年5月28日 | よみもの帝王切開出産の際に適用される麻酔の種類3つ

【女性からのご相談】
もうすぐ臨月を迎えます。合併症があるので、もしかしたら帝王切開になるかもしれないと言われました。今の所は普通分娩の予定ですが、万一帝王切開になった時、どんな麻酔を使うのか、副作用はないのかが心配です。もちろん、医師から説明があるとは思うのですが、事前に知っておいた方が良いことがあったら教えて下さい。
麻酔の種類は、大きくわけて3種類。
合併症があるということで、いろいろとご心配も多いことでしょうね。
今日は、帝王切開の緊急性などに合わせて使い分けられる、3種類の麻酔についてお話ししたいと思います。

(1)硬膜外麻酔
エピドーラル(Epidural)とも呼ばれ、無痛分娩に使われる麻酔と同じものです。
大きな利点は、麻酔薬の追加が可能であるため、手術自体が長引いても麻酔が切れる心配がないことと、術後も痛み止めとして使えることです。
私たちの神経は、脳から体の各所に電気コードのように張り巡らされていますが、それらの神経の束は、“脊髄”と呼ばれ、背骨の中を走っています。
この脊髄は、硬膜と呼ばれる厚い膜で守られており、この硬膜と、脊髄の間にある隙間のことを、“硬膜外”と呼びます。つまり、硬膜外とは、神経の外側にある空間のことを指します。
硬膜外麻酔は、神経や血管に直接麻酔薬を注入するのと違い、隙間に麻酔薬を注入して、神経に染み込ませて作用させます。プラスティックの細い管をこの隙間に留置して、必要な時に何度でも麻酔薬を注入します。
通常帝王切開の場合、この硬膜外麻酔が第一選択となります。脊髄麻酔と同様に、手術中も意識はハッキリしていますが、脊髄麻酔より副作用が少ないという利点もあるからです。
副作用としては、術後の頭痛が100人に1人と言われていますが、脊髄麻酔より確率は低いです。
(2)脊髄麻酔
これは、第一選択として行われることは珍しく、硬膜外麻酔がうまくできなかった時に、代わりに用いられる場合がほとんどです。
上で説明したように、硬膜外麻酔は、脊髄と硬膜の間にある隙間にカテーテルを入れるという、非常に高度な技術を要します。
背中から針を入れて行いますが、中で起こっていることは目で見えないため、手探り状態です。
経験豊富な麻酔医でも、患者の背骨の形や、背中の脂肪の量、処置の際の患者の姿勢の悪さなど(特に陣痛がある場合は静止できないこともある)、様々な条件でうまくできないこともあります。そのような時は、もっと処置が簡単な脊髄麻酔に切り替えることもあります。
脊髄麻酔は、脊髄の一番外側にある脊髄腔という所に麻酔液を注入する方法です。この脊髄腔は脳脊髄液という液体で満たされており、脊髄(神経そのもの)を衝撃から守っています。
麻酔の利き方自体は硬膜外麻酔とほぼ同じで、下半身のみ感覚がなくなり、意識はあります。ただし、カテーテルを留置しておくことができないので、一定時間を超えると麻酔が切れ始める点と、頭痛の副作用率が高い点が、硬膜外麻酔より若干劣ります。
(3)全身麻酔
これは、最終手段として用いられます。なぜなら、全身麻酔の麻酔薬は母体の血液に入って全身を回るため、胎盤を通して胎児にも影響するからです。
ただし、大きな利点として、麻酔そのものにかかる時間が、他の2種類に比べ圧倒的に短いのです。
硬膜外麻酔と脊髄麻酔では、患者に正しい姿勢をとらせ、背中を消毒し、手探りで腰椎の間の隙間を探り、局所麻酔をして、針を入れて……などなど、30分ほどの時間を要します。
胎児や母体の命に関わるような緊急性の高い場面では、そのような時間はありません。ですから、即座に帝王切開を行えるように、全身麻酔が施されるのです。
このような緊急の場合、胎児に麻酔の影響が強く出る前に娩出が行われますから、胎児への影響はそれほど心配する必要はないでしょう。
万が一麻酔が影響している場合でも、人工呼吸や麻酔薬の作用を消す薬の使用などで、危険な事態は避けられます。
全身麻酔は、他の麻酔に比べ全身にかかる負担が大きいため、心停止や重度の低血圧、脳障害など、重大な副作用を招くこともありますが、その確率はとても低いです。
いずれにしても、近年の医療技術の向上に伴い、麻酔も以前のように危険なものではなくなりました。
もちろん、どんな医療行為にも副作用はつきものですが、まずは赤ちゃんとお母さんの命を救うことが一番大切なことです。
妊娠中に、納得のいくまで医師に質問して、十分に情報収集をした上で、安心して臨めると良いですね。
【参考リンク】
・脊椎麻酔(下半身麻酔)について | 東麻酔研究所