コミュ力だけで世間は渡れない?“コミュ力自慢”の子の「適性」と「落とし穴」

こんにちは。コラムニストで経済思想史家の鈴木かつよしです。

筆者が子どもだった昭和30年代から40年代は「勉強は苦手だけどスポーツだけは得意」という友だちがいっぱいいて、“勉強エリート”の子たちとはまた違う存在感と輝きを放っていました。

しかし現在は、スポーツができる子は“アスリート”と呼ばれてエリートの一種とされますので、すべからくメジャーな存在になりました。今、ポテンシャルのある層として存在しているのは「勉強もスポーツもこれといって得意ではないけれどコミュ力だけは自信がある」という子どもたちではないでしょうか。

このような子たちはその後お笑い芸人や地方議員として有名になったりする場合もあり、楽しみな面も多いのですが、一方で気をつけないと足元をすくわれてしまう「落とし穴」と隣り合わせにいるようにも見えます。

今回は“コミュ力自慢”の子どものママのみなさんにぜひ注意して見守っていてほしい彼らの「適性」と「落とし穴」についてお話ししたいと思います。

1017suzuki

コミュ力自慢の子どもたちに“向いている”進路は?

医師だ弁護士だ一級建築士だといったような“取得するためには相当の学力を要する職業”には最初から関心がなく、かといってプロスポーツの選手になるほど何かの運動競技に秀でているわけでもない。

だけど“コミュ力”にだけは自信があって、「同窓会の幹事ならあいつに任せておけば間違いなく盛り上がれる」と定評を得ているような人がいます。

本稿でいう“コミュ力自慢の子どもたち”です。

筆者が自分自身の職業経験や、暮らしている地元での人間関係などからみて、こういった“コミュ力自慢の子どもたち”に向いている進路として次のようなものが挙げられます。

◆消防士
◆建設現場での技術者・作業者(大工・鳶・左官等含む)
◆芸人・お笑い芸人
◆接客業全般
◆保育士
◆地方議員
◆飲食業・販売業の従業員ならびに経営者
◆信用金庫職員
◆地元放送局のアナウンサー

ざっとこういったところでしょうか。

消防士さんや建設現場で作業する人は大きな声を出して仲間と連携をとることが不可欠ですし、以下のどの仕事をみても“コミュ力”がものをいう要素が大きく、コミュ力自慢のお子さんがこういった進路を目指したいという場合には、ママのみなさんにはぜひ背中を押してさしあげていただきたいと思います。

コミュ力自慢の子どもたちに共通する“落とし穴”

コミュ力自慢の子どもたちのママのみなさんによく注意していただきたいのはむしろここからの話です。

お子さんたちが目指しているような世界には経済社会学的にみるとある特徴があり、その点の認識が甘いと思わぬところで足元をすくわれる怖れがあるからです。どういうことでしょうか。

わが国の地域経済の世界は強固な地縁・血縁で結ばれた共同体である場合が多く、大半のケースで“世襲”の後継者たちが地元経済圏にある個別企業を経営しています。

こういう経営者やリーダーの人たちは概して面倒見がよく親切ですので、お子さんたちが現状にこれといった疑問を持たずに目の前の仕事に専念している限りにおいては彼らから可愛がられ、円滑な関係が期待できるでしょう。

地域経済に限らず全国規模の経済界も体質的には大体同じです。

『ヤンキー化する日本』の著者で精神科医の斉藤環先生はこの体質のことを“ヤンキー体質”という言葉で表現しています。

斉藤先生によればわが国の経済社会は『統治する側とされる側が同じ体質』(ヤンキー体質といってもいいし、コミュ力第一主義といってもいい)であるため基本的に「安泰」な社会ではあるけれど、そのかわりに大きな発展もなく閉塞的な社会でもあると指摘しています。

つまり、コミュ力自慢の子どもたちにとっての落とし穴は、いったん社会人になったあとで「もっと上の世界を目指したい」という気持ちに目覚めてしまったときに、日本の国内にはなかなかそれを受け入れてくれる体質がないため苦労しがちである、ということなのです。

具体的な例を挙げるなら実際にこのような話があります。

小学生の頃からコミュ力抜群だった同級生のSさんは専門学校を卒業した後、地元のC市で幅広い事業を営む地域有力企業であるK社という同族会社に就職。地元での顔を生かして30代で部長になった彼はサラリーマンに飽き足らずC市の市会議員選挙に立候補して見事に当選。C市では最年少の市会議員になりました。ところが議員になってからC市のエネルギー政策の遅れに気づいてしまったSさんは自然エネルギー化の推進を訴えて後援会長でもあったK社の3代目社長と対立。執拗ないじめと“村八分”に遭い、再選を期した市議選では落選してしまったのです』(30代女性/都内C市在住、主婦)

Sさんがもし自然エネルギーの研究者との交流や研究内容そのものへの造詣、そして自然エネルギー化を願う市民との対話をもっと持っていたなら、再選されていたのかもしれません。

筆者が地元C市に住む30代主婦の女性から聞いたこの話は、「ヤンキー的なコミュ力だけである程度まで出世した人は、より質の高いところを目指そうと思うとかつてヤンキー的な仲間だった人たちからの村八分に遭って失脚する怖れがある」という教訓を示しています。

コミュ力はもちろん大切だがもっと大切なのは譲れない“信念”

今回の話を読まれて「息子にはコミュ力で上手く世間を渡って行ってくれればそれでいいわ」とお感じのママも多かろうと思います。

筆者もそう思います。というよりも、コミュ力でもって市会議員にまでなられたSさんのような方はすごいと思いますし、それ以上の出世など望まなくてもいいのではないかとも思います。

ですが、ママのみなさんに考えていただきたいことが一つだけあります。

今の日本の社会、コミュ力だけで渡っていたらしまいには疲れ果て、おかしくなってしまうと思いませんか?

コミュ力の根幹をなす要素の一つである「協調性」という能力はとても大切なものではありますが、『協調性だけを強調するカルチャーが、ムラ社会におけるいじめのロジックを補強している。一人だけ変わったことをするやつはいじめていいという話につながっている』(前出・斉藤環氏)

という精神科医の見方もあるように、コミュ力頼み・協調性頼みでやや無理して繋がった人間関係においては、Sさんと後援会長でもあるK社の社長さんのようにいったん亀裂が入ってしまうと深刻です。

Sさんは立派な大人ですから大丈夫でしょうが、もしまだ10代のお子さんがそんな状況にぶつかって悩んでいたなら、ママのみなさんはこう言ってさしあげてください。

協調性だとかコミュニケーション力だとかよりも、自分の信念を大切になさい』と。

その後30代主婦の女性から聞いた話ですが、Sさんは市議落選浪人中の間に再生可能エネルギーについて独学で猛勉強され、Sさんを支援するC市の市民の人たちの後押しもあり、次の市議選には満を持してリベンジの立候補をするそうです。

ご自身の考えが必ずC市の市民の生活を豊かにするはずだというSさんの信念はきっと功を奏するはずだと筆者は信じて疑いません。

繰り返しますがママのみなさん、お子さんが「人間関係の協調か、自分が正しいと思う信念か」で悩んでいたら、信念を大事にするようにおっしゃってください。

親だけは絶対的に子どもの味方でいてやらなければいけません。

●参考文献:『ヤンキー化する日本』斉藤環・著(角川書店)2014年
●モデル/SAYA、ゆみ

ライター紹介

鈴木かつよし(エッセイスト)

鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

あなたにオススメ

この記事が気に入ったら
いいね!しよう♡