精神科医もお手上げ!? 労働者の非正規化が“うつ”を引き起こすワケ

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。

東京都の豊島区で『クリニック西川』を開院する精神科医の西川嘉伸先生は、その公式ホームページの中で、抑うつ状態を訴えてメンタルクリニックに来院する多くの患者さんについて、「最近は精神科の医師による治療だけではどうにも症状が改善しない症例が多すぎる。その原因は、大半の患者さんにとっては環境要因としての“社会”そのものを変えなければどうしようもないというところにある」という主旨のことを述べておられます。

つまり、「努力しているのに報われず貧困から這い出せない患者さんが多すぎて、精神医学的な治療だけでは限界がある」と仰るのです。

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うつ状態の患者の多くにとって精神療法と抗うつ薬による治療だけでは解決にならない

西川先生はクリニックの公式ホームページの中で、次のように述べています。

『抑うつ状態を呈する患者さんにとってはその人を取り巻く環境の中で悪い影響を与えている因子を取り除いてその人の本来の力が十分に発揮できるような環境に作り変えてあげなければ社会復帰は困難ですし復帰したとしても容易に再発してしまいます。(中略)

その環境改善が容易ではなく社会そのものを変えなければならないと感じる例が増えています。極端に言えば、山ほど抗うつ薬を処方したって到底治らない。まっとうな職を見つけてあげればたちどころに改善すると思われる方が少なくありません。(中略)

日常の生活に窮して絶望の淵に立っている人が増えているのです』

労働の非正規化が“努力が報われない社会”を生み出す一要因であることはたしか

筆者の身近にいる人たちの中にも、いわゆる“うつ”の状態が長引きメンタルクリニックの治療を受けているのにもかかわらず、なかなか症状が改善しない人が何人もいます。主に20代から40代にかけて。

男性も女性もいますが、そのほとんどが非正規雇用で独身の人たちです。彼(彼女)らがとてもやさしく、真面目で、正社員に優るとも劣らない責任感をもって仕事に携わっていることを、筆者はよく知っています。

その人たちが一度抑うつ状態に陥ってしまうと、その状態から脱出できない。

非正社員だというだけで正社員から見下されることが原因で発症したうつ状態なら、西川医師が言うように環境を変えてやる必要があるのに、そんなことを口に出しでもしたら「非正社員の雇用契約書に“配置転換”などという優遇措置は無いよ。嫌なら明日から来ないで」と一蹴されてしまいます。

同じ立場の恋人と愚痴を言い合うだけでも違うけれど、デートするにもお金は要る

働く人の非正規化が始まったのは、1980年代に成立した“労働者派遣法”からだと言われています。

その後、2000年代の製造業派遣の解禁を経て着々と進み、今ではわが国で働く人の4割以上が非正規雇用です。

非正社員の人に配置転換の道など無いというのであれば、せめて同じ立場の恋人と愚痴を言い合うだけでも精神衛生上ぜんぜん違うというもの。

ところが、早稲田大学教授で『恋愛学』の権威である森川友義博士によると、『デートを重ねるにしても“お金・時間・労力”が要ります。非正規雇用で低収入の人たちにとって、恋愛はしたくてもできないというのが実情です』(朝日新聞2016年6月25日付夕刊「ココハツ」欄より)ということになります。

環境調整は家族、職場、友人、地域、行政などの協力があって初めて可能になる

西川嘉伸医師は言います。

『環境調整は、家族、職場、友人、地域、行政などたくさんの人や組織の協力があって初めて可能になります』

しかしながら、非正社員の人が“職場”に環境調整を望んでもまず無理ですし、“行政”はそもそも労働の非正規化を積極的に推し進めてきた張本人ですから、これまでの行政府とは感性のうえでまったく違うものを選挙などを通して作り上げないことには本質的な協力は期待できないでしょう。

わたしたちは、西川先生のようなかたが『精神科医による治療には限界がある。(メンタルクリニックを訪れる)患者の多くが不健全な社会によって生み出されたことを素直に認めるべきです』と仰るのを、右から左に聞き流してはいけないのだろうと思います。

筆者は個人的にはここまで浸透してしまった非正規という働き方を、軒並み正社員化するということにも無理があろうと考えています。

それよりも正社員が非正社員を人として尊重すること。

正社員でなくても、ある程度の生活可能賃金とある程度の賞与とある程度の退職金を制度として用意することが必要ではないかと思っています。

努力したって認められないという疎外感。真面目に一所懸命働いたって賞与も退職金も貰えないという絶望感だけでも改善すること。

難しく長い道のりであってもそれに向けての行動を継続すること。

西川医師のような尊敬すべき人生の大先輩に「精神科医の限界」と言わせてしまっては、後に続く世代の者としてとても情けないような気がしてならないのです。

【参考リンク】
医療法人社団 求林会 クリニック西川

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

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