趣味で人生再スタート! 中高年の“心の風邪”を癒やす俳句8選

【ママからのご相談】
50代。団体職員。長女が結婚し家を出てから心に穴が開いたようです。下の息子は昨年東京の大学に合格して一足先に出て行ったため、わが家は定年間近の夫と私と80代の義母(夫の実母)の中高年3人だけになりました。夫はこのごろ会社でもさほど忙しくないようで、まだ日のあるうちに帰ってきます。趣味もない人なので家にいてもどこか元気がありません。義母は義母で90歳だったお姉さんがこの春に亡くなられてから沈みがちで、「あたし一人生き残っちゃったわ」などとつぶやいています。3人とも“精神疾患”とまではいかなくても“心の風邪ひき”状態です。先日、医師をしている従兄から、「そんなとき、中高年には“俳句”がいいよ」と言われ、だまされたつもりで始めてみようかと思っています。どんなものがいいのでしょうか。

a 芭蕉や一茶、高浜虚子らの名句を紹介しますので、まずは元気をもらってください。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

1960年代にアメリカでその効果が確認された詩歌療法は、その後日本にも紹介されるようになりました。わが国では詩歌の中でも特に定型詩としては世界最少の文字数で表現する“俳句”が最も好まれ、俳句療法は、最初、統合失調症の治療法として採り入れられましたが、誰でも気軽にはじめることができる詩歌であることからその後幅広く浸透して行き、今では精神神経科系や心療内科系の症状に対する補完医療の一療法として多くの局面で用いられるようになっています。

ここでは、都内でメンタルクリニックを開業し俳句療法を臨床の現場にも採り入れている精神科・心療内科の医師と“心の風邪とも言える軽い精神神経症状の改善に効果のある俳句”の名句をいくつか主に中高年のかた向けに選んでみましたので、まずは俳句に親しんでみてください。芭蕉や一茶、高浜虚子といった皆様ご存じの名人たちの句が中心ですので、きっと元気をもらえることと思います。

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心を癒やす俳句8選

(1)春の名句:大雨や花の三月ふりつぶす<一茶>

待ち遠しかった春がようやく訪れたと思ったら、春に特有の大雨でせっかく咲いた桜の花がたくさん散ってしまった。残念ではあるけれど、今年も春がやってきて花を咲かせてくれたのも自然の力。春の大雨でその花びらのほとんどを散らしてしまったのも自然の力。

『ご相談者様の旦那様がお勤めの会社に入られて忙しく働きつづけ子どもさんたちを立派に育ててこられた。それも自然なことであったのだとしたら、定年が近づいてきた今だんだんと仕事も少なくなり、時間ができてきたのも自然なことです。別段さみしいことではありません。そういう年齢になったのだと受け入れ、持てるようになった時間を楽しみましょう。紙と鉛筆さえあれば今すぐはじめられる俳句は、その意味でもとても手軽に楽しめる趣味だと言えます』(50代女性/都内メンタルクリニック院長、精神科・心療内科医師)

(2)春の名句:子のたちしあとの淋しさ土筆(つくし)摘む<杉田久女(ひさじょ)>

『子どもが成長し家を出て行ったあとの寂しさは、子どもをもつ親なら誰でも経験しなければならないものです。特に、春は旅立ちの季節です。子どもが巣立って行ったあと、家の近くの小川の土手に咲く土筆んぼをただ黙々と摘んでみるのもいいでしょう。気がついたら旦那様も一緒に摘んでいるかもしれませんね』(50代女性/前出・医師)

(3)夏の名句:大の字に寝て見たりけり雲の峰<一茶>

『酷暑の夏の日、エアコンを効かせた部屋に大の字に寝転がって入道雲を見上げてみましょう。なんにもせずにただぼうーっと雲を見ていましょう。突然に雷鳴をとどろかせるかもしれません。ご相談者様も旦那様も、もうそんなひとときをゆったりと楽しんでいい年齢です。積乱雲のことをいう“雲の峰”という夏の季語を使って、一句作ってみてはいかがでしょうか』(50代女性/前出・医師)

(4)夏の名句:夕立が洗つていつた茄子(なす)をもぐ<種田山頭火>

夏はたしかに暑くて大変ですが、緑に満ちていて生命が息づき自然の恵みにあふれた楽しく美しい季節です。近年は夕立といっても亜熱帯のスコールのような激しい雨が降ることが多くなり山頭火の時代とはちょっと趣きが違うのでしょうが、家庭菜園のナスは当時よりもっときれいに洗われておいしいかもしれません。

(5)秋の名句:君と共に四十年の秋を見し<高浜虚子>

『まさにご相談者様ご夫婦にささげたい一句です。余計な解説なんか要りませんね。ご相談者様ご夫婦は四十年近くもの年月にわたって同じ秋の紅葉を見ながらともに生きて来られたのです。誰からも、何も言われる筋合いなどありません。これからは、テイク・イット・イージー(気楽に行こうよ)で生きましょう。俳句の良さは、この句のように心の底から自然に湧き上がって来た言葉を五・七・五にまとめるだけで歴史に残るような名句が出来上がってしまうところにもあると言えます』(50代女性/前出・医師)

(6)秋の名句:ヒヨンの木に蝉百匹の残暑かな<高浜虚子>

『ヒヨンの木とは、特定の樹木の種類を指す言葉ではなく“希少価値の高いその地域の名木”という意味です。秋に鳴くセミはもう残りそう長くはない命ですが、それでも同じ名木に百匹も集まって出る限りの声を出しつづけています。ご相談者様のお義母様も同じで、与えられた天命を大切に生きつづけることそのものが、この上なく尊いことなのです。同じような高齢者のかたがたも百人ではすまないくらいわが国には居ます。「生き残っちゃった」などと言わないでください。やがて生まれて来るお孫さんたちは、おばあさんに会えることをとても楽しみにしているのです』(50代女性/前出・医師)

(7)冬の名句:初雪や水仙のはのたはむまで<芭蕉>

これも目の前に情景が浮かんでくる句ですね。このように、自然のあり様を季節感たっぷりに描くことは俳句の醍醐味の一つです。しかも五・七・五に当てはめるという作業がありますから、50代以上のご相談者様ご家族の皆さんにはとてもよい“脳トレ”になります。

(8)冬の名句:旅に病んで夢は枯野をかけ廻(めぐ)る<芭蕉>

『松尾芭蕉の事実上最後の一句です。病床に伏してもなお夢がかけめぐるのは人間の性(さが)であり、何歳になっても「こうありたい」と思うイメージや夢がある限りそのイメージを達成しようと脳神経系統が自律的な活動を続けるのがヒトの心身の特長です。スポーツ選手の“イメージトレーニング”が現実に有効なのはそのためなのです。この際ご相談者様は趣味のない旦那様にも「生き残っちゃった」などと言ってるお義母様にも声をかけて、一緒に俳句を作ってみてはどうでしょうか。そして定期的に3人による自作の句の発表会を開いてお互いに鑑賞し合うのです。きっとお三方ともに人生が改めて張り合いのあるものになってくるだろうと思います』(50代女性/前出・医師)


いかがでしたか。“心の風邪”が、少しよくなられたのではありませんか?

精神神経症状といっても今回のご相談のような感じであれば、必要以上に深刻にとらえるべきではない範囲のものだと考えます。このような場合こそ、あまり薬物療法に頼るのではなく、俳句療法も含めた芸術療法で“癒やされる”ことをお勧めしたいと思います。

今回、俳句の魅力に少しでも触れていただけたようでしたら、今度はぜひご自分で俳句を作られてみてはいかがでしょうか。何歳になってもご夫婦、ご家族で一緒に楽しめる、すてきな趣味ではないかと思います。

【参考文献】
・『吟行・俳句歳時記』艸吟の会・著

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

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