実例に学ぶ! 神経の難病「ALS」を発症した人ができる仕事とは

【女性からのご相談】
50代の主婦です。1年前に定年退職し、「これからは二人で大型客船の旅行を楽しもう」と言っていた船好きの夫が、難病のALSを発症してしまいました。予後を考えると頭がグチャグチャで、何も手につきません。どうしたらいいでしょうか?

a ALSは末期まで患者とコミュニケーションがとれます。ご主人のやりたかった仕事をしてもらいましょう。

ご相談ありがとうございます。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。

今のご相談者様のご心境、お察しするに余りあります。ただ、父親を高度の認知症が誘因で亡くしている私から誤解を怖れずに申し上げるならば、病状が進行すると人格を喪失してしまう認知症と比べると、ALS(筋萎縮性側索硬化症)はかなり末期まで患者さんとコミュニケーションがとれるため、伴侶や家族はまだ精神的に救われる部分があります。

以下、都内の総合病院で神経内科に勤務する医師から聞いた話を参考に、記述させていただきたいと思います。

150610suzukikatsuyoshi

ALSを発症してからも患者さんに“できる仕事”があります

『ALSは、10万人に1人〜2.5人が発症する運動ニューロン病の一種で、男性に多いのが特徴です。ALSを発症すると、手足・のど・舌や呼吸に必要な筋肉がだんだん衰えていきますが、筋肉そのものの病気ではなく、運動をつかさどる神経だけが障害を受けます。進行が速く、人工呼吸器を使わないと、多くの場合は発症後2年から5年で呼吸筋麻痺により死亡します。原因は不明で、有効な治療方法が確立されていません。

介護に多大なマンパワーを必要としますが、国が特定疾患(難病)に指定しています。そのため、特定疾患受給者証の交付を受ければ、医療費は全額助成されます。また、重症患者認定を受ければ、通院や入院の費用、および訪問看護ステーションの自己負担分も助成されます。

医療費以外の面ですと、多くのALS患者は、症状が進行しても視力や聴力、体の感覚などに問題がありません。認知機能が正常に働くため、患者さんに“できる仕事”がある点が、大きな救いの部分であると言えます』(50代男性/都内総合病院神経内科医師)

ALS発症後も仕事を続けた患者の例

“打撃王”ルー・ゲーリッグ

ニューヨーク・ヤンキースのルー・ゲーリッグは、34歳の終わりごろにはすでに歩くときにふらつくなどの症状が現れ、突然倒れることもありました。それでも、35歳のシーズンは打率2割9分5厘、本塁打29本、打点114と、“打撃王”の名に恥じない結果を残しました。

36歳でALSの正式診断を受けて引退してからも、37歳で亡くなる1か月前まで仮釈放委員会のオフィスで委員として熱心に仕事をしていたといいます。当時、現役選手時代に93kgあった体重は41kgにまで落ちていたそうです。しかし、彼は、自分のことをALSの“犠牲者”ではなく、“同じ病気に悩む人々の希望”と捉え、“生命が尽き果てるそのときまで屈しない生き方”を貫きました。

理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士

イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、学生だった1960年代にALSを発症しました。ところが、途中で進行のスピードが弱まり、気管切開をして人工呼吸器を装着することで、73歳となった2015年現在でも健在です。

ホーキング博士は今でも重度障害者用意思伝達装置やコンピュータプログラムによる合成音声を利用して、意思の伝達やスピーチをしており、研究の数々は現代宇宙論に多大な影響を与え続けています。

また、博士は折に触れて、『社会に参加し、大衆の意識を変えるのがALSを背負った人々の仕事です。女性や黒人が大衆の意識を変えてきたのと同じように』という趣旨の発言をしています。

ご主人が一番やりたかった仕事をしてもらいましょう

『米カリフォルニアALSセンターの所長であったノリス氏(故人)は、ALS外来の診察の際に患者さんに、「ALSで死ぬことは、もうないのです。あなたが希望するのであれば、私たち医療関係者はあらゆる手段を使ってあなたが生ききれるように対応することができます」と言いました。

ノリス氏の言う通り、人工呼吸器の開発や小型化・携帯化、たん吸引機器の発達、各種コミュニケーション機器の積極的な開発、栄養補給技術の進展などにより、今やALSは、それによって死ぬことはなくなった病気であると言えると思います。

また、最近では、京都大学iPS細胞研究所が、ALS患者から採取した皮膚細胞からiPS細胞を作り、運動神経の細胞に変化させることに成功しました。これにより、将来的にはALSが治療できる可能性が出てきました。

ただし、ご主人のご存命中にALSの治療法が確立することまでを期待するのはやや無理がありますので、ご相談者様には将来的な可能性を信じて対症療法を続けながら、ご主人に人生で一番やりたかった仕事をしてもらうのがよろしいかと思います。船に関してエッセイを執筆するなどは、眼球運動障害が現われない限り可能でしょう』(50代男性/前出・神経内科医師)

家族の心のケアとしての音楽療法のすすめ

平成25年度の特定疾患医療受給者数を見ると、国内では約9,200人がALSを患っています。その患者さんの多くは家族による全面的な介護を必要としており、介護する人の身体的・精神的な負担は想像を絶するものがあります。

最後に、ALSの患者さんのご家族の心の持ち方について、前出の医師の言葉を記述させていただきます。

『ALS患者を介護する立場の人が、身体的に相当ハードな日々を覚悟しなければならないことは事実です。しかしながら、患者さんとはコミュニケーションが取れますから、その点を救いと考えて、思いつめないことが重要です。私は認知症や終末期の患者さんたちと向き合う中で音楽療法の存在を知って取り入れてきたのですが、音楽療法は患者さんだけでなく、介護する人にも有効であると考えています。

例えば、ALSのご主人を介護する奥さまが、「どうしてこんなことになってしまったのだろう」と不安に襲われたとき、あえてその悲しみを自然体で受け入れるような歌を声に出して歌うことをすすめる場合があります。その“癒し効果”は、複数の音楽療法士も認めているところです』(50代男性/前出・神経内科医師)

【参考リンク】
筋萎縮性側索硬化症(公費対象) | 難病情報センター

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

data-ad-region="1"> data-ad-region="2">
data-ad-region="2"> data-ad-region="2">

あなたにオススメの記事

パピマミをフォローする