心の名医モタさんに学ぶ! 格差社会でも貧困夫婦が希望をもてる言葉3つ

【女性からのご相談】
30代。パート勤務です。夫は、IT関連の会社の顧客サービス・スタッフで、非正社員です。夫婦とも賞与や退職金はなく、平均的な正社員世帯の半分程度の月収の中から家賃も国民健康保険料も国民年金保険料も払っています。子どもを持つなど夢のまた夢ですが、このあいだ書店で斎藤茂太(さいとうしげた)先生という、既に亡くなられた精神科医で随筆家の方の著書と出会い、大変勇気をいただきました。

たしか、小さなヤマメと大きなサクラマスは元々は同じ魚で、川での生存競争に敗れエサを求めて海へと下って行った“負け組”の魚たちが、やがて大きなサクラマスとなったという内容のエッセイでした。私たち夫婦のように、格差社会の下層にいてなかなか希望を持てない者の救いになる、こういったお話は、斎藤先生のアンソロジーの中に他にもありますでしょうか。

a あります。心の名医“モタさん”のとっておきのお話しを3つ、ご紹介いたします。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

大学の大先輩でもあった“モタさん”こと斎藤茂太先生に私が患者としてお世話になったのは、1986年から1987年にかけての足かけ2年間のことでした。

政府系の政策銀行で中小零細企業の審査業務に携わっていた若き日の自分は、当時父親が経営していた工場の財務内容をみて、「倒産は避けられない」ことが分かり、いかに工場の従業員や取引先への被害を最小限のものにとどめて着地させるかを毎晩のように考えているうち、強度の機能性難聴(心因性難聴)に陥り、耳がほとんど聴こえなくなってしまいました。

器質性障害がないために耳鼻科の治療では治らず、自分と同じような“長男特有の悩み”を理解してもらえそうな精神科医を探して、そのころまだ新宿の大京町にあった“斎藤神経科クリニック”の門を叩いたのです。

あばら家のようなクリニックの診察室で患者と向き合う斎藤先生は正に“心の名医”そのもので、徹頭徹尾患者の訴えを聴いた上でそれをけっして否定せずに応答する、“心が弱っている者の味方”でした。エッセイストでもあった先生は書物もたくさん残していますが、ここでは私が診察室で先生から直接に聴いたお話しのうち3つを、一字一句正確ではないかもしれませんが主旨はそのままで、ご相談者様に紹介させていただこうと思います。

150526suzukikatsuyoshi

“心の名医”が語った3つのエピソード

人生に失敗がないと、人生を失敗する。たとえお互い潰れたとしても、人生には無駄なことはない

私の実家の工場の経営状態がおもわしくないことを話すと斎藤先生は、こうおっしゃいました。

『このご時世、世間ではみな賞与、賞与と騒いでいるけれど、私のこのクリニックは儲かっていなくて看護師さんたちや事務方の人たちに賞与が払えないんだ。でも、こんなに一所懸命働いてくれてるみなさんに、「賞与1円もありません」とはとても言えない。だから今日の午後銀行に行って借金をしてこようと思ってるんだ。金額は雀の涙ほどでも、せめてもの気持ちとして。

大きな声では言えないけれど、返済し切れる自信はないんだけどね。もう何年も前から借金は膨らむ一方で、このクリニックも潰れそうさ。でもね、たとえお互い潰れたとしても、人生に無駄なことはないんだよ。というよりも、人生に失敗がなかった人は失敗から大切なことを学ぶ機会がなかったので、あとで人生を失敗する。潰れたら潰れたでその経験が、あなたの中にも僕の中にも、ほかの人ができなかった経験として、積み重なっていくんだよ』


ご相談者様。あなたの言う“格差社会の下層にいるような者の経験”も、斎藤先生に言わせれば、「ほかの人にはできなかった貴重な経験」ということになるのです。

自分のない人ほど自分を主張する。自分を客観視できる人は、確かな自分を持っている。だから心配はない

何度か診察を重ねたあるとき、私が斎藤先生に、「こんなふうに耳が聴こえにくくなったのも、実は自分の中にツラい現実から逃げたい気持ちがあるからだと思うのです」と言うと、先生はこうおっしゃいました。

『自分が現実から逃げていると言えるあなたは、立派な精神科医だ。客観視することができている。実は、自分のない人ほど、「自分は現実から逃げてなんかいない」と主張するんですよ。自分を客観視できる人は確かな自分というものを持っていて、とことん悩むといずれ、「これも自分だけど、あれも自分。やり直せばいいじゃないか」みたいに楽観的になることができるんです。だから、心配することはないよ』


いかがですか。ご相談者様のように、「今の自分は格差社会の下層にいる」と客観的に言うことができるような人は、しっかりとした自分というものを持っているので、いずれ人生がよい方向に向いて行くので心配することはないと、斎藤先生はおっしゃっていたのです。

“今はできない”だけであって、“絶対にできない”わけではない。今、何があるかで発想すれば、そのうちにできるようになることがある

実家の工場が倒産するとなれば両親は住んでいる家も手放すことになるだろうから、どこで何をやって生きて行くことになるのか。かといって、当時まだ20代の半ばで、しがない転勤族だった自分などに両親まで引き取って暮らして行くほどの実力もないし……。

あれこれ思い悩んでいた私に斎藤先生は、

『今はまだ考えがまとまらないだけ。そうなったらそうなったで今まで見えなかった別の道が目の前に開けてくるから、大丈夫。“今はどうすることもできない”と“絶対にできない”を間違えてはいけないよ。何年も工場を経営し、従業員さんたちを雇用してきたようなご両親なら、あなたが心配しなくても立ち直る。そのうちにあなたも人として、社会人として成長する。今、何を失ったかではなく、今、何があるかを考えること。ご両親には経験があり、あなたには若さがある』

と、話してくださいました。


ご相談者様。子どもを持つことなど夢のまた夢だとおっしゃいますが、果たしてそうでしょうか。旦那様は非正社員とはいえ、IT関連業界で立派な実務経験をお持ちなわけですよね。ちょっとしたきっかけひとつでどんなチャンスがあるか、わからないですよ。

それに、「自分たち夫婦は格差社会の下層にいる」と言いながら、「今よりちょっとでも良くなろう」と、そのためのヒントを求めて書店でいろいろな書物との出会いを探している。斎藤先生が生きていたら、「大丈夫!」と、太鼓判を押されるだろうと思います。

前を向いて歩いていれば、苦労は人を成長させる

“心の名医”こと斎藤茂太先生は、2006年11月20日に満90歳で心不全で逝去されるまで生涯現役を続け、亡くなられたその時点でもたくさんの仕事を抱えていらしたそうです。先生が、「潰れるかもしれない」とおっしゃっていた四谷のクリニックは今は東京都下で大きな精神科・神経科病院となって、先生のご長男が院長をなさっています。

そして先生の不肖の後輩で患者だった私は、その後も紆余曲折を繰り返しながら、先生が“もう一つのライフワーク”として大切にしていた“エッセイで心が弱っている人たちを励ます”という仕事を、後半の人生における職業とすることにいたしました。

ご相談者様に最後にもう1つだけ、心の名医の金言をお贈りしておしまいにします。

『前を向いて歩いていれば、苦労は人を成長させる』

【参考文献】
・『長男の本』斎藤茂太・著

【関連コラム】
定年のピンチを救う! 年の差夫婦が“加給年金”を受け取る条件3つ
節税できる? 個人年金保険に加入する前にチェックしたいこと2つ
105万人が利用! 学費に悩む家庭への“就学援助制度“とは
夫を食事面からサポート! うつ病が改善できる栄養素一覧
アロハヒーリングに学ぶ! ストレスを溜めずに生きる知恵4つ

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

data-ad-region="1"> data-ad-region="2">
data-ad-region="2"> data-ad-region="2">

あなたにオススメの記事

パピマミをフォローする