ポールの曲で元気に! 老人性うつの改善に効果的な“音楽療法”のススメ

【女性からのご相談】
40代の主婦です。70歳になる母は1年前に長年連れ添った夫(私の父)を亡くし、それ以降、「何もする気が起きない」「何も食べたくない」「体中が痛い」などと訴えるようになりました。精神神経科と神経内科の病院を受診したところ、「認知症の所見はなく、老人性うつと見られる。正しく、根気よく治療すれば改善は期待できます」と先生から言われました。

「お母さまの趣味は何ですか?」と先生に聞かれたため、「両親ともにビートルズのポール・マッカートニーさんの音楽が大好きでした。2002年と2013年の来日公演に2人で行ってます」と答えると、「それを思い出させてください」と言われました。今年(2015年)の来日公演は先日終わってしまったので、今回の公演の内容をご存じの方に、様子を教えていただきたいのです。母に聞かせようと思います。

a お母さまにとって、一番の薬は、ポールよりも“あなた”。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

80歳になる小生の母は、4年前に夫(小生の父)を亡くしたときは大丈夫だったのですが、兄弟姉妹の中でただ一人健在だった長姉を今年に入って亡くした際、老人性うつを発症し食欲が全くなくなりました。

かかりつけ医師の適切な診断のおかげで漢方薬を処方してもらうとともに、患者がいちばん興味の持てることをさせて快方に導くという患者個人に合った治療法(母の場合は雑誌の乱読でした)ですっかり回復しましたが、やはり高齢者の体調や精神状態の悪化はとても気になるものです。

ご相談者さまのお母さまは、亡くなられたお父さまとともにポール・マッカートニーさんの大ファンだったとのこと。お父さまは2013年の来日公演のときにはまだお元気だったのに、翌年急に逝かれてしまわれたのですね。お母さまはさぞ、心にぽっかりと穴が開いてしまわれたことでしょう。

小生、去る4月25日のポールさんの東京ドーム公演のチケットが運良く入手でき行ってまいりましたので、ポールさんとビートルズのことについては、せんえつながら小生がお話しさせていただきます。老人性うつ病に関する専門的な見解については都内でメンタルクリニックを開業する精神科医師に聞いた話を参考にしながら、記述させていただきます。

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老人性うつ治療のキーワードは、「生きていてできることがまだまだありますよ」

『高齢者のうつ病の場合、“配偶者を亡くした”“定年退職をした後、何もすることがない”“子どもが独立して家を出て行ってしまった”など、身近で大切な者との死別や生活環境の変化、加齢に伴う身体的衰えなどが引きがねとなって始まることが多いです。

その原因の大きな部分が、いわゆる“喪失感”にある点を逆に治療に利用して、「生きていてできることがまだまだありますよ」と、ご本人の潜在的能力を引き出してさしあげることが病気の本質的な改善に有効であるとの見地から、最近ではアートセラピーやアニマルセラピー、音楽療法などの心地よい刺激をもって脳を活性化させる治療法が重要視されるようになりつつります』(50代女性/都内メンタルクリニック院長・精神科医師)

72歳のポールさんは、亡くなったパートナーたちと心の中で一緒に生きていました

さて、ここからは私がポール・マッカートニーさんのライヴに参加して感じたことをお話しさせていただきますので、ぜひともお母さまにお伝えください。

まず、私が感じたのはポールさんの“ロック音楽の生きた人間世界遺産”で72歳であるにもかかわらず、“今を生きている”姿勢の素晴らしさです。新曲の斬新さもそうですし、現在の妻であるナンシーさんへの“今を一緒に生きてくれている”ことへの感謝の表現。

また、ポールさんは、35年前に凶弾に倒れ亡くなった盟友ジョン・レノンさんへ、“きみは今もここにいるよ。僕は今でもきみとともに生きているよ”と、『ヒア・トゥデイ』(1982年作品)の中で語りかけます。さらに、同様に先立たれた“静かなるビートル”ジョージ・ハリスンさんへと、彼の名曲『サムシング』を彼の得意だったウクレレの弾き語りで披露しました。

そして、ポールさんを支え続け、1男2女をポールさんとの間にもうけた前々妻のリンダさんへの感謝のMCも忘れません。ポールさんは今でも心の中のリンダさんと一緒に歌っているように見えました。

老人性うつを発端に認知症になっていくことのないよう、早い段階で対処を

『老人性うつ病は、症状が認知症と似ている部分もあるため、時として認知症と間違われることも多い病気ですが、認知症とは明らかに違う点があります。主な相違点としては、次のような点が挙げられます。

(1)認知症の症状はゆっくりと進むが、老人性うつ病は変化が起きるきっかけがはっきりしており、何かのきっかけで激変してしまう
(2)認知症患者は攻撃的になるが、老人性うつ病の患者に攻撃性は特に見られない
(3)認知症では親しい人や自分の名前などの基本的な記憶を失うが、老人性うつ病ではそういうことはない

こうして見ると、認知症と違い、老人性うつ病は適切な診断と治療さえ施せば、必要以上におそれる病気ではないと言うことができるかもしれません。ただ、うつ病を発端として本当に認知症になって行くという事例も少なくありませんので、高齢者の方とそのご家族は、うつ病の段階で適切に対処し、絶対にその段階で食い止めるという心がけは持たれた方がいいかと思います。ご相談者さまのお母さまを診察された先生はそのために“お母さまの生き甲斐は何”だったのかを聞き出し、それが亡き夫とともに愛したポールさんの音楽だと分かった今、それを用いた音楽療法が最も有効であろうと判断されたのだと思います』(50代女性/前出・精神科医師)

今回の日本公演でポールさんが歌った曲などをお母さまにお話ししてあげましょう

ご相談者さまに提案したいことがあります。ポールさんが今回のライヴでどのような楽曲を歌ったのかを、お母さまにぜひ教えてあげてくれませんか。今回の公演でポールさんが披露した曲目が、ネット上に記録されていますので、それを参考にしながらお話ししてみてください。

きっとお持ちのCDを引っ張り出して聴きはじめるのではないかと思うのです。お母さまにとってこれほどの音楽療法は他にないのではと、小生は思うのです。

いちばんの薬は、これほど心配してくれる娘がいたことにお母さまが気づくことです

久しぶりにポールさんの音楽を聴いたお母さまは、さぞかし元気をもらうことでしょう。お父さまと行かれた過去2回の来日公演を、まるで昨日のことのように思い出されるのではないでしょうか。

『ところで、うつ病によく見られる症状の1つに“食欲不振”がありますが、高齢者のうつの場合は決してこれを侮ってはなりません。特に女性の場合はタンパク質の不足により筋肉量が減少して、骨粗しょう症と相まって体を起こしていることがだんだんと困難になり、寝たきり生活、ひいては認知症へと進んで行くおそれがあるからです。

音楽療法で“心の栄養”を摂取したなら、今度は“体の栄養”を食事でもってきちんと取らなければいけません。老人性うつ病の場合、体への負担を考えて、小柴胡湯(しょうさいことう)などの漢方薬を処方して気を落ち着かせ、自然に食欲を喚起するケースも少なくありません。しかし、何よりも、いちばんの薬は、「自分にはこれほどまでに自分のことを心配してくれる娘がいたんだ」ということにお母さまが改めて気づくということです。「まだ、一人じゃない」ことに気づくことこそが、最高の良薬となるのです』(50代女性/前出・精神科医師)

ポール・マッカートニーさんの楽曲による音楽療法以上に、お母さまがそのことを再認識されたことの方が、今回、老人性うつという災いを転じて福となすことへの第一歩となるよう、願ってやみません。


ご相談者さまのお母さまが、「生きていてできることがまだまだあるわ」と再認識していただけたなら、これに勝る喜びはありません。小生としてはお母さまに、『私と夫とポール・マッカートニー』というタイトルの自伝を書いていただきたいな、などと勝手な希望を持っている次第でございます。

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●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

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