子供の“なりたい職業”で人気な漫画家&小説家の現実

【ママからのご相談】
中学生の息子と小学生の娘がいる40代のママです。息子は漫画を、娘は物語を書くことが大好きで、親バカではありますが作品を読むと2人とも才能はあるように思えます。漫画家も小説家も小中学生の“なりたい職業”のベスト20に必ずランクインする人気の仕事ですが、知り合いに漫画家も小説家もいないので、どんな人たちなのかさっぱりわかりません。本気でそれを目指してもいいような職業なのかどうか、教えてください。

a 素顔は普通の人ですが、「生きることは描く(書く)こと」という人たちです。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

小中学生の“なりたい職業ベスト20”に必ずランクインしてくる仕事の中でも、“医師”や“学校の先生”などはそれなりの数の人が実際に“なって”おり、夢を実現させています。が、漫画家や小説家となると、実際になれた人の数は極端に少なくなります。

運よく私には、知人に漫画家と小説家が1人ずついるので申し上げるのですが、彼らの素顔は驚くほど“普通の人”です。ところが、ひとたび作品を描き(書き)はじめたら、話しかけても何も聞こえないほどのおそろしい集中力を持つ、まさに“命を削りながら描いて(書いて)いる”とも言える、“生きることは描く(書く)こと”といった表現がふさわしい人たちです。

ご相談に対する回答として、私が知る漫画家と小説家の素顔をご紹介したうえで、彼らの仕事の医学的な問題点については都内で内科・心療内科クリニックを開業する医師に伺ったお話を参考に、記述させていただきます。

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「本物の価値を理解できない者には偽物でいい」と主人公に語らせた漫画家H氏の素顔

まずご紹介するのは、贋作専門の美術品ギャラリーを経営する画商の生き方を描いた作品で、ある出版社系の漫画賞を1995(平成7)年度に受賞した漫画家のH氏です。H氏と私は大学時代に数学のクラスが同じでその単位を1年時に取得できなかったため2年になってからも机を並べて再履修した仲でした。

H氏は授業中でもいつも漫画を描いていましたが、数学の講義を聴いていたあるとき、H氏が突然に漫画を描く手を止めて、「こないだ親父が死んだんだ。家族のために、俺が漫画で稼がないといけない」と言いました。当時の私たちはまだ19歳でしたから、H氏の父親のあまりにも早い逝去の話しを聞いた私が思わず涙ぐんでいると、H氏は、「ありがとう」と一言だけ言いました。

その年の秋に、H氏は大学に通いながら、私に言った通りにプロの漫画家としてデビューしました。得意な漫画で家族の生活を支え、その後の活躍は多くの漫画ファンの人たちが知るところかと思います。贋作ギャラリーを描いた代表作は2005年にはアニメ化され、テレビ放送されました。

H氏は物静かで穏やかな、普通の人です。派手なところは全くありませんが、しっかりとした自分の考えを持っている人で、彼の作品の中で贋作を取り扱う主人公の画商が、「本物の価値を理解できないような者には偽物を掴ませておけばいいのさ」という趣旨の台詞が出てくるのですが、あれは主人公にH氏が自分の思いを語らせているのだと、私は推察しています。

彼は若いころから、順風満帆で経済的な苦労を知らないような人が言う“格好の良い”“浅薄な”言葉を、“本物”と見なしてはいませんでした。

H氏が仕事として描いている日本の“漫画”は、今や世界中の人たちから生活の中の拠り所として必要とされている文化です。ご相談者さまの息子さんももしプロの漫画家を目指すのであれば、そのことをまず、誇りに思ってください。

『漫画家の仕事は、医学的には長時間座っての作業に伴う腰痛や利き腕を激しく使うことによる腱鞘炎、締め切りに追われる生活に由来する胃痛・胃炎などを発症するケースが多く、大変であることは間違いありません。その人なりのストレス解消方法や健康法を持っておく必要があるでしょう』(50代男性/内科心療内科クリニック院長・医師)

「夢というものは、叶えるのにはずいぶん時間がかかる」と言った小説家のK氏

次にご紹介するのは、織田信長を題材にした歴史ミステリー小説が26万部の売上を記録するベストセラーとなった小説家のK氏です。K氏は私が大学を卒業して就職した会社の上司で、当時調査部長という要職にありながら私たちに、「会社という組織の仕事をしているだけでは駄目だ。自分を磨きつづけ、自分の身をもって紡ぎ出すようなライフワークを持ちなさい」と常にアドバイスをしてくださいました。

新入社員の私と政府系機関の調査部長とではあまりにも格が違うわけですが、当時の私が雑誌に若者の立場で思うことをエッセイの形で継続的に発信していることをK氏はご存じで、入社直後に、「今年入って来た学生エッセイストというのは君だね。頑張りなさい」と激励されたことは、今でも私の大切な思い出になっています。

40代のころからビジネス書などは著していたのですが、サラリーマンを辞めてから本格的に好きな歴史小説を書きはじめ、“本能寺で討たれたという信長だが、本当に信長は本能寺で死んだのか。その後天下を取る秀吉が、何か関わっていたのか。権勢の絡んだ人間関係が、どれだけ複雑なものなのか”という刺激的なモチーフの作品を2005年に発表。この作品は当時“変人”と呼ばれ存在感のあった内閣総理大臣が、「愛読書だ」と発言したことでも話題になりました。

K氏が信長の小説でデビューしたのは何と、75歳のときです。「自分を磨きつづけよ」といつも私たちに言っていた氏はその言葉通りに御自身を磨きつづけ、著名な小説家になってから、「夢というものは、叶えるのにはずいぶん時間がかかるものだ」と発言しています。

“食べるための仕事”と“自己実現するための仕事”を両方もつ道もある

ひとことで漫画家だ小説家だと言っても、そのあり方は実に多様で、デビュー年齢ひとつとっても19歳の学生のときにデビューしたH氏のような人もいれば、75歳という普通の人なら仕事をする意欲・体力ともに衰えてくる年齢でデビューしたK氏のような人もいます。

2人に共通しているのは、“作品を通して自分の人生観を表現している”ところと、“創作することが生きることそのものである”という点です。

ご相談者さまの息子さん、娘さんが過度に恐れをなさないように申し上げるなら、“食べるための仕事”と“自己実現するための仕事”を両方もっておくというリスク分散のためのひとつの方法もあると思います。

特に小説家の中には“食べるための仕事”を持ちながら活動している人もしばしば見られます。あとはひとえに、“漫画を描くこと”“小説を書くこと”がどれだけ好きかにかかっているのではないでしょうか。

『小説家という仕事をするうえで気をつける必要がある医学的問題点は、やはり第一に精神的なものでしょう。物事をとことんつきつめて考えるため、鬱になるリスクは一般的な職業の人よりは高いかと思われます。やはり、自分に合ったストレスの発散方法を見つけておく必要が、どうしてもあるかと思います』(前出・内科心療内科医師)


最後に余談をひとつ。早くに父親をなくしたことがプロの漫画家になる直接的な引き金となったH氏ですが、彼は2011年3月11日に発生した東日本大震災で大切な家族を失った震災孤児たちのために、「漫画を描くことで貢献したい」と仲間の漫画家たちに呼びかけて、“ヒーローたちの復活”という趣旨のテーマを冠した企画を提案。

H氏と8名の漫画家たちがかつての名作の新編を書きおろすという快挙を実現させました。単行本の収益と印税が被災者の方々に寄付されるシステムの企画です。もちろんあのクールな贋作画商も、何年ぶりかで復活しています。

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●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

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